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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第31章

第558回

 シャルロットは目に涙をためたまま、スール=サント=ジュヌヴィエーヴを見つめていた。そのちょっとすねた表情を見ているうちに、かの女は少女時代のクラリス=ド=ヴェルモンのことを思い出していた。
『大人たちって、本当に何もわかっていないのよね』クラリスは、五線紙に向かってよくそうつぶやいていた。『みんなで、わたしたちを子どもだと思っているんだわ。わたしたちだって、ちゃんと自分の意思で行動してるのにね』
 スール=サント=ジュヌヴィエーヴは、五線紙をはさんだファイルを持って立っているクラリスの姿を見たような気がした。かの女は、シャルロットを抱きしめてから、その少女がクラリスではなかったことに気がついた。
「マ=スール・・・?」突然修道女に抱きしめられ、シャルロットはびっくりしてささやいた。
「わたしは、あなたが死んだと思っていたわ。わたしは、この写真の少女のために、毎日お祈りをしていたのよ。あなたを思い出して、いったい何度泣いたことでしょう・・・。わたしは、この写真を手放したくなかった。あなたがとっても好きだったから・・・」スール=サント=ジュヌヴィエーヴは、そう言うなりすすり泣いた。
「泣かないでください、マ=スール・・・わたしは、生きているんです」シャルロットが言った。
「そうね・・・そうよね・・・」かの女は、シャルロットをはなした。そして、散らばっているバッグの中味をすべて戻し、シャルロットに松葉杖を手渡した。かの女は、ハンカチで目を拭いてから、それをバッグにしまい、バッグのふたを閉じた。顔を上げたとき、かの女はほほえんでいた。シャルロットは知らなかったのだが、かの女はここにやってきて以来、こんなふうにほほえんだことはなかった。
 シャルロットも涙を拭いてほほえんだ。かの女はそれを見て、あらためてクラリス=ド=ヴェルモンを思い出した。クラリスは、こんなふうにほほえむひとだった。そして、このほほえみを見ると、自分も幸せな気分になるのだった。
 スール=サント=ジュヌヴィエーヴは、優しく言った。「会いたくなったら、いつでも訪ねていらっしゃい、ロッティ」
 シャルロットはうなずいた。
「でもね、さっきも言ったけど、わたしは、あなたの母親にはなれないのよ。そうなってはいけないの」かの女は続けた。
 シャルロットの顔がさっとくもった。
「・・・いいですか、よくお聞きなさい、ユーフラジー」修道女が言った。「みんな、あなたが死んだと思っているわ。だから、あなただけは、この先、命を狙われることはないわ。いい、これからも、絶対に、ほかの人に自分の名前を打ち明けてはだめよ。どんなに信用している人にでもね」
「たとえ、プティ=ドンニィにでも?」
 その名前を聞くと、かの女の表情はこわばった。「ええ、もちろん、そうよ。信じられる人なんか、誰もいないと思いなさい。残念ながらね」
 シャルロットはうなだれた。
「・・・わたしのほかに、誰かに話した?」かの女が訊ねた。
「研究所の所長代理たちは、知っているわ」シャルロットは正直に答えた。またさっきのように叱られるのを覚悟した。
 意外なことに、かの女はほほえんだ。「彼らは大丈夫よ、ユーフラジー。彼らは、必ずあなたを助けてくれます。彼らは、あなたにとって<父親代理>でもある人たちよ。でも、もうほかの人にはしゃべっちゃだめよ」
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