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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第31章

第559回

「ええ、約束します」シャルロットが答えた。
「たとえ、乳母のフェリシアーヌ=ブーレーズにであっても」かの女は念を押した。
「はい」シャルロットはうなずいた。そして首をかしげた。「・・・どうしてかの女を信頼しちゃいけないの?」
「かの女は、信頼できる女性です。マドレーヌ=フェランさん---いいえ、ディラン夫人でしたね---が亡くなった後では、この世で一番信頼できる女性です。でも、わたしは、念のため、例外を作っておきたくないの。わかるわね?」
 シャルロットは返事をためらった。
「誰に話していい、誰に話してはいけない・・・あなたに、そんな些細なことで悩んで欲しくないの。大切なことは、秘密を守ることなのよ。その目的は、あなたの命を危険にさらさないこと」修道女が言った。「だから、例外を作らないの。秘密というものは、誰かとは共有できないものなのよ、元来ね」
 シャルロットは、最近、誰かに同じようなことを言われたことを思いだした。
『人間は、秘密を持つと、誰かに話さないではいられないものなんだよ』アルフレッド=ド=グーロワールは、秘密についてこう語っていた。
 スール=サント=ジュヌヴィエーヴは、ほほえんでこう言った。「昔、わたしの親友がこんなことを言ったことがあったわ。『もし、広めて欲しい噂があるときには、誰かにこう耳打ちすればいいの。《これは、わたしとあなただけの秘密よ》って。これを3人に対してやれば、3日以内に、その話を知らない人はいなくなるわ』」あのとき、クラリスは、そう言いながらいたずらっぽくほほえんでいたっけ・・・。
 それを聞いたシャルロットは、思わずふきだした。
「秘密って、そういうものなのよ」かの女は真面目な顔をしようとしながら言った。しかし、親友のクラリスそっくりな少女が目の前で笑っているのに、真面目な顔などできようもなかった。それでも、かの女は無理に真面目な顔をした。「あなたには、いつか、リールに行ってもらいたいわ。そこには、ド=ルージュヴィル家の別荘があるの。わたしが殺されそうになったあとで、フィルは---ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーは、あそこに行ったの。彼は、自分もまもなく殺されると思ったらしかったの。それで、彼は、あなたのペンダントを、あの庭に埋めたの」
「ペンダント?」
「ド=ルージュヴィル家ではね、女の子が生まれると、ド=ルージュヴィル家の紋と子どもの名前、生年月日を刻んだペンダントを作らせることになっているの。それは、たとえ結婚したあとでも、ド=ルージュヴィル家の一員であるという印なの。ド=ルージュヴィル家は、ルイ13世につながる由緒ある家柄なのよ」かの女が言った。「ふつう、それは、生まれたときから本人が身につけているか、結婚するときに渡されるものらしいの。でも、彼は、あなたが結婚するまでは自分が生きられないだろうと思ったの。それで、それを木の下に埋めようと思ったのよ」
「木の下?」
「そう。裏庭の、一番大きな木の根元」かの女はちょっとだけほほえんだ。「それは、クラリス=ド=ヴェルモンの養父が、かの女のペンダントを隠した場所をヒントにした場所なの」
「それで・・・父親が手渡せなかったかわりに、わたしに取りに行け、と・・・?」シャルロットが訊ねた。
 スール=サント=ジュヌヴィエーヴは、表現しようもないような不思議なほほえみを浮かべた。かの女は、肯定も、否定もせずにほほえんでいた
「わかりました、約束します」シャルロットは、厳かな口調で言った。
 シャルロットは、スール=サント=ジュヌヴィエーヴを見送った。かの女は、自分がどこに行こうとしていたのかすっかり忘れていた。そして、パトリックの病室に戻っていったのだった。
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