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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第31章

第566回

 翌朝、シャルロットはいつものように皆よりやや早めに教室に向かっていた。
 途中、噴水前の掲示板の前を横切ろうとしたとき、見覚えがないポスターを発見し、足を止めた。
 一つは、校長の名前で出された布告だった。それは、今後一ヶ月ソサイエティの活動を停止するという内容の通知だった。日付は、前日のものだった。クーデターが終了してすぐに、校長は活動停止を決定したのだろう。
 もう一つは、やや色あせた緑色のポスターだった。その色からすると、そのポスターはかなり前からそこに貼られていたものに違いなかった。シャルロットは、そのポスターを見たのは初めてだったので、かの女が編入する前にすでにそのポスターの上に掲示物があったに違いない。


《第14回全国青少年ピアノコンクール第3区予選会のお知らせ
 第3区予選会は、次の要領で行われます。
 期日:1912年12月4~9日
     12月4日~6日 第一次予選
     12月7日~8日 第二次予選
     12月9日 本選
 会場:アランソン市ラ=サール=ド=ムジーク
 課題曲:Aベートーヴェン ピアノソナタ第21番ハ長調作品53
      Bベートーヴェン ピアノソナタ第23番ヘ短調作品57
      Cベートーヴェン ピアノソナタ第29番変ロ長調作品106
      ほかに5分以上の自由曲を1曲(ベートーヴェン以外で)
 詳しくは、下記の事務局へおたずね下さい》




 シャルロットは、ポスターをじっと眺めていた。かの女は、もしかすると自分と関係ない話ではないかも知れない・・・と思ったのである。なぜならば、かの女のピアノの先生は、編入後の初めてのレッスンのとき、かの女に<ベートーヴェン作曲ピアノソナタ第29番変ロ長調(ハンマークラヴィーア)作品106>を練習してきなさい、と言ったことを思いだしたのである。どうしていきなりそんな難しい大曲を弾かせようとするのだろう、と思ったのだが、もしかすると、これに応募させたかったからではないのか、とふと思ったのである。もし、先生がそのつもりなら、かの女はコンクールに出てみるのも悪くはないかも・・・と考えた。でも、なぜ、<ハンマークラヴィーア>なのだ? ほかの2曲の方がずっと簡単なのに?
「・・・今度のレッスンのとき先生に確認してみましょう」シャルロットは独り言を言った。
 そのとき、かの女の後ろをギュンター=ブレンデルが通った。
「・・・おや、コンクールに出るの?」彼は、挨拶抜きでそう訊ねた。
 シャルロットはにっこり笑った。「クラコヴィアークのブローニャが、ヴァイオリンコンクールでなくピアノコンクールに出る、と言ったら、ポーランドの人はどう思うかしらね?」
「もし、きみが優勝したら、クラコヴィアークのピアニストの名声が高まることだろうね」ギュンターが冗談めかして答えた。
「そうじゃないわ。『クラコヴィアークって変な集団だ。一流のピアニストがヴァイオリンなんか弾いてるなんて。作曲の才能がある少年にピアノを弾かせることだってそうだ。二人そろって貴重な時間と才能を無駄にしている』って怪情報が飛び交うようになるのよ」シャルロットは真面目に答えた。
 その返事を聞くなり、ギュンターの顔が真っ青になった。
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