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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第31章

第567回

 シャルロットがほほえんでいるのを見ているうちに、ギュンターの表情も明るくなってきた。
「・・・記憶が、戻ったの?」ギュンターが訊ねた。
 シャルロットはうなずいた。
「よかったね、と言ってもいいかな?」
「ありがとう」シャルロットが言った。「あなたに会えてよかったわ。謝りたかったのよ、ずっと。だって・・・」
「あのとき、自分の正体を隠していたから?」ギュンターが訊ねた。
「隠してはいなかったわ。わたしたち、ちゃんと自己紹介したわ。でも、あなたが気づかなかったのよ」シャルロットが言った。「気づかせようと努力しなかったのは事実だけど。だから、謝りたかったのよ。本当は、『わたしたちの演奏、楽しみにしていてね』と言いたかったのよ・・・でも、言えなくてごめんなさい」
「でも、こうして再会できた」ギュンターが優しく言った。「再会の挨拶ができて、本当にうれしいよ。思い出さないまま、ミュラーユリュードを離れることがなくて、本当によかった」
 シャルロットはもう一度うなずいた。
「きみがコンクールに出ることを、サヴェルネ教授はどう思うだろうね?」
「聞いたら、きっといい顔をしないと思うわ」シャルロットが言った。「そんなことをしているくらいなら、早くヴァイオリンの修行においで・・・そう言われるのは間違いないわ」
 ギュンターはうなずいた。
「わたしにも、ピアノコンクールに出る意義がわからない」シャルロットが言った。「そもそも、わたしは、このコンクールのことをよく知らないわ。教えてもらえる、アンシクロペディー?」
「全国青少年ピアノコンクール、というのは、全国を10ブロックに分けて予選をし、勝ち抜いた10人の代表が、4ヶ月間さらに難しい曲を練習して本選に臨む、ハードなコンクールだ」ギュンターが言った。「この地区の代表は、これまで本選で1位になったことはない。ついでに、この学校から本選に残ったのはただ一人しかいない。先月、学校代表を決める予選会があったんだ」
「じゃ、もう、コンクールに参加することはできないのね?」シャルロットが少しうれしそうに訊ねた。
「いや。《学校代表》として参加する人を決めただけだ。自由参加は認められている」ギュンターが言った。「たとえば、マルフェなんかは、自由参加組だ」
 そのとき、二人の後ろでコルネリウス=ド=ヴェルクルーズが声をかけた。
「・・・呼んだ?」
「やあ、マルフェ」ギュンターが言った。「きみは、コンクールに出るんだろう?」
「一応、そのつもりだけど」コルネリウスが答えた。「ライヴァルはきみかな、プティタンジュ?」
「わたしは・・・」シャルロットは首をかしげた。
「<ハンマークラヴィーア>を練習しているんだってね」コルネリウスが言った。
 シャルロットが返事をしようとしたときには、コルネリウスはすでに通り過ぎていた。
「彼は、<ベートーヴェン作曲ピアノソナタ第21番ハ長調(オーロール))>を練習していた。あれは、彼が得意な曲なんだ」ギュンターが言った。
「わたしは、出られないと思うわ」シャルロットが言った。
「なぜ? 国籍の問題? 年齢制限?」ギュンターが言った。「それなら、問題ないよ。フランスの学校に通っている19歳未満の生徒、というのが出場資格だ」
「下限はないのね?」シャルロットが驚いて訊ねた。
「ついでに言うと、学校の種類にも制限がない。逆に言えば、コンセルヴァトワールの生徒でもコンクールに出られるんだ」ギュンターが言った。「だから、勝ち抜くのがひどく大変なんだよ」
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