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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第31章

第568回

 二人は、教室に向かって歩き出していた。
 シャルロットは、ギュンターにパトリック=ド=メディシスの話を始めた。彼の病状の説明を終えたあと、かの女は彼の父親を捜したいという意向を告げたのである。
「・・・それで、わたしが考えた方法は、雑誌に広告を載せたらどうかというものなの」シャルロットが言った。「彼の父親が読みそうな雑誌に、連絡が欲しいと載せてもらうのよ」
「なぜ、新聞じゃないの?」ギュンターが訊ねた。
「すべての新聞に広告を出すのは、お金がかかりすぎるわ。それなら、確実に読みそうな専門誌の方がいいんじゃないかと思ったの」
「専門誌?」
「彼の父親は、バラが好きだったはずよ。だから、植物を扱っている雑誌なら、たとえ彼の目にとまらなくても、彼の知人が読むかも知れないわ。ねえ、アンシクロペディー、ドイツの有名な雑誌の名前を教えて」
 ギュンターはちょっと困ったような顔をした。「ごめんね。あまり詳しくは知らないんだ。でも、有名なところだと、<リンデンバウム>とか<花と木>、<ガルトナー>・・・くらいしかわからない」
「バラが好きな人向けの雑誌は?」
「<フラウ=カール=ドルシュキー>かな? ハンブルクの雑誌社から出ているよ。バラの専門誌だから、バラ好きの人なら目を通しているんじゃないかな?」ギュンターが言った。「それより、フランスの雑誌社に広告を出してみれば? もしかすると、彼はフランスの雑誌を読んでいるかも知れないよ」
 シャルロットは考え込んだ。なるほど、フランス語の雑誌か。彼はフランス人だから、フランスの雑誌に目を通している可能性は十分ある。
「フラウ=カール=ドルシュキー・・・」シャルロットは小さい声でつぶやいた。
「・・・知っている人?」ギュンターが訊ねた。
 シャルロットは首を横に振った。「いいえ。でも、その花はよく知っているわ。とてもきれいなバラだった・・・わたし、それを持って、スターシのお墓に行ったのよ。彼が好きな花だったから・・・」
 二人はいつの間にか教室についていた。シャルロットの言葉を聞き、フランソワ=ジュメールとウラジーミル=ミチューリンはびっくりしてかの女を見つめていた。
「スターシって・・・もしかして、記憶が戻ったの?」何も知らされていなかったウラジーミルはびっくりして訊ねた。
 シャルロットはウラジーミルを見つめ、うなずいた。
「そう、よかったね・・・」ウラジーミルが言った。
 シャルロットはもう一度うなずいた。「ありがとう、ウラジーミル=ニコラエヴィッチ」
 ロシア語で返事が返ってきたので、ウラジーミルの顔が輝いた。
「・・・あなた、ニコライ=アレクサンドロヴィッチの息子さんね?」シャルロットは、ウラジーミルに向かってそう訊ねた。「あなたは、彼の息子さん・・・年下の方の・・・」
「覚えていてくれたの?」ウラジーミルは思わず涙ぐんだ。「そう、父の名前は、ニコライ=アレクサンドロヴィッチ=ミチューリンだ」
 ロシア語がわからないフランソワは、驚いたように二人をかわるがわる見つめた。
「お父さまは、お元気?」シャルロットが訊ねた。
「おそらく、そうだと思う。そうであって欲しい」ウラジーミルが返事をした。
 シャルロットはちいさくうなずいた。
 ここにも一人、外国に父親がいる息子がいた・・・。
「わたしも、そう願っているわ」シャルロットが言った。
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