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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第31章

第569回

 そのとき、ノックの音がした。
 4人ははっとして、一斉にドアの方を見た。
 開いたままになっていたドアのところに、五線紙をひとまとめにした手書きの楽譜を手に抱えた少年が立っていた。リシャール=マティスだった。
「この時間なら、あなたがここにいると思いました、マドモワゼル=チャルトルィスカ」リシャール=マティスは真面目な顔で言った。「今朝は、お願いがあって来ました」
 シャルロットは首をかしげた。「ブリュメール=クーデターに関係ある話ですか?」
 少年は、一瞬言葉につまったようだった。「・・・ええ、関係があるといえばあるのですが・・・」
「謝罪なら、相手はわたしじゃないと思うわ」シャルロットが容赦ない口調で続けた。
「いいえ、あなたに謝らなければならない話なんです」彼はちょっと悲しそうな顔をした。「ぼくは、ブリュメール4日、あの不幸な事件を目撃しました。それなのに、ぼくは、あなたの敵になってしまったのです。だから、お詫びがしたかったんです」
「なぜ謝らなくちゃならないかわからないわ。あなたは、自分たちが正しいと思っているんでしょう?」
 彼は首を横に振った。「自分たちが正しいと思ったことは、一度もありません」
「じゃ、どうしてクーデターをしなければならなかったの?」シャルロットはもう一度首をかしげた。
「しなければならないような状況に追い込まれたからです」彼が答えた。「ぼく個人は、あのような形でのクーデターには反対でした。あなたを利用したくなかったからです」
 シャルロットは、彼が本気で謝罪していることに気がついた。
「ぼくは、二度とあんなことを、あなたに対して行うつもりはありません。いいえ、ぼくは、二度とあなたの敵にはなりません。どうか許して下さい」
 シャルロットはちいさな声で言った。「わたしは、あなたを恨んだことも敵だと思ったこともないわ。あなたに許しを請われても困るわ」
「・・・つまり、味方だと思ってくれるんですね?」
 シャルロットはうなずいた。
 彼は手書きの楽譜をかの女の前にさしだした。
「ぼくは、昨日、交響詩を書き上げました。これをあなたに受け取ってもらいたいんです、お詫びの印として・・・いいえ、決してあなたの敵にはならないという契約の印として・・・」
 シャルロットはほほえんだ。「ええ、喜んで・・・あなたを友人の一人として認めます」
 彼は真っ赤になった。「ありがとう。ぼくは、決してあなたの敵にはなりません。誓います」
 シャルロットは、楽譜を受け取った。
「厚かましいのですが、もう一つだけお願いがあるんです」彼はますます赤くなった。「クリスマスに、スゴンがこの曲の初演を行う予定です。そのとき、ソリストとしてピアノを弾いていただけませんか?」
「ピアノですって?」シャルロットはびっくりした。
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