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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第31章

第572回

「アルマン=リヴィエール先生の弟子の一人が、先生に直談判したんだそうだ」ド=グーロワールが説明した。「彼が先生に何を言ったのかはわからないけど、先生は、『彼から銀貨30枚もらったんだ』と言っていた」
 シャルロットは目をぱちくりさせた。かの女は、彼が何を言いたいのかわかると、真っ青になった。「・・・ミュー・・・オーギュスト=ド=マルティーヌなんですね、モマン=ミュジコー?」
 ド=グーロワールはうなずいた。
 シャルロットは動揺した。「・・・その話、受けるわけにはいかないわ・・・」
「どうして? オルガンが弾きたかったんでしょう?」
「それはそうですけど・・・」
「とにかく、彼と話をしてみることだ」ド=グーロワールが言った。
 シャルロットは首を横に振った。
「彼と話をしなさい。そして、断わるのなら、彼に直接断わりなさい。これは、わたしからの命令だ」彼はそう言うと、かの女に背を向けた。
 シャルロットはふるえていた。オーギュスト=ド=マルティーヌとは会いたくなかった。
 ヴィルヘルミーネ=フォン=シュヴァルツベルクが、かの女の後ろから肩を叩いた。「・・・鞄を持ってきたわ。化学実験室に移動しなくちゃならないわ、プティタンジュ」
「ありがとう、サン=スーシィ」シャルロットは力なく返事した。
 午前中の授業は、のろのろと経過した。シャルロットにとっては、耐え難いほどの長さに感じられた。
 ようやく、サント=ヴェロニック教会のお昼の鐘が鳴った。
 シャルロットは、3年7組の教室に向かった。オーギュスト=ド=マルティーヌは、一番後ろの席で何か書き物をしていた。
「・・・こんにちは、ムッシュー=ド=マルティーヌ」シャルロットはドアのところから声をかけた。
 オーギュストは顔を上げた。その顔は真っ青だった。
「あなたは、リヴィエール先生に銀貨を30枚渡したんですってね」シャルロットはストレートに話しかけた。
 オーギュストの口元がゆるんだ。彼は笑い出さないように、あわてて口元を引き締めた。
「イスカリオテのユダが先生を買収したら、話が逆だわ」シャルロットが真面目な顔で言った。
「・・・ぼくは、あなたに謝りたかったんです」オーギュストも真面目な顔で言った。「ぼくは、<ル=グループ=トレーズ>のメンバーとして、あなたとモマン=ミュジコーではなく、仲間を選んでしまいました。でも、あのとき、ぼくにはほかの選択肢がありませんでした・・・」
 シャルロットは首を横に振った。「あなたは、わたしのためにイスカリオテのユダになる、と言ったわ。あれは、嘘だったのね?」
「あれは・・・」オーギュストは口ごもった。
「わたし、あのとき、あなたに言ったわよね。彼を信じて、って。わたしは、ル=グループ=トレーズのメンバーの中で、あなただけは信じられると思っていたわ。いいえ、あなただけは信じたかった」
 オーギュストは何か言おうとしたが、シャルロットはそれを制した。
「でも、あなたは、ル=グループ=トレーズを選んだんだわ。あなたにとって一番大切なものは、彼らだったのよ、わたしではなく」
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