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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第3章

第56回

 1894年の夏も、アレクサンドリーヌ=ド=ティエ=ゴーロワは、友人たちを自宅に招いた。
 同期入学組では、アレクサンドリーヌを除く全員が卒業を決めていた。彼らが一堂に集まる機会は、もしかしたらもう二度とないかもしれない・・・アレクサンドリーヌは、そういって、皆を誘ったのである。
 卒業した人たちのほとんどは、パリに行く予定でいた。リディア=ロランとエマニュエル=サンフルーリィは、秋に開校予定のメランベルジェ校の入試を受けて結果待ちである。ナターリア=スクロヴァチェフスカは、パリの祖母の家に戻る予定でいたが、その後の予定はまだ決めていなかった。予定がないのは、クラリスも同様である。クラリスは、フランソワーズ=ド=ラヴェルダンのもとに戻ろうとしていたのだが、フランソワーズは、もう少し誰かに作曲を学んだ方がいいと勧めていた。恩師エリック=ランディは、自分の師のアンリ=ロランに推薦状を書いて渡していたのだが、クラリスはアンリ=ロランのもとに行くことをためらっていた。
 アレクサンドリーヌの兄ゴーティエは、夏休み限定の特別編成のオーケストラを作ったのである。1ヶ月限定のオーケストラのメンバーは、あちこちの音楽学校の生徒たちを中心としたアルバイトであった。雇用条件がよかったので、結構有能な若者が多く集まっていたが、中にはテオドール=フランクのようなヴェテランも混じっていた。
 ゴーティエは、クラリスに、そのオーケストラを使って、何か作曲をしてもらいたいと思っていたのである。彼自身は、できあがる作品はピアノコンチェルトになるだろうと想像していたのであった。
 クラリスは、オーケストラのメンバーに、書き上げたばかりのパート譜を配った。
 タイトルは、<交響曲(仮題)>と書かれていたので、ゴーティエは驚いたのであった。
 7月25日、ティエ=ゴーロワ家の広い庭の一角で、オーケストラのメンバーの初顔合わせが行われた。指揮は、もちろんエマニュエル=サンフルーリィである。クラリスは、パート譜96小節分のスコアを彼に渡した。エマニュエルは、その編成を見て驚いた。
「・・・ピアノ三台に、このオーケストラですか?」
 確かに、このオーケストラの規模では、ピアノ三台は多すぎるような気がした。
「まだ、決定じゃないんです。とりあえず、音を聞いてみたくて・・・」クラリスが説明した。
 実際に音が出ると、クラリスは、いくつか気になる点を発見した。トランペットとファゴットの楽譜には、あきらかな写し間違いのミスがあり、オーボエとティンパニーの譜面には、さらに改良の余地がありそうに思えたのである。ピアノ抜きの練習であったが、このオーケストラの力量がだいたいわかったような気がする・・・とクラリスもエマニュエルも思ったのである。
 そこへ、真っ白い馬に乗った少年が現われた。彼は、馬から下りるなり、エマニュエルに向かってこう言ったのである。
「あなたは、トランペットのピッチが気にならないんですか?」
 エマニュエルとクラリスは、あぜんとして少年を見つめた。確かに、トランペットのピッチは少々うわずっていた。といっても、普通なら気がつかないくらいのずれである。
 少年は、彼らが驚いているうちに、また馬にまたがり、ゆっくりとその場を離れたのであった。
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