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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第3章

第57回

 休憩に入り、クラリスはアレクサンドリーヌにさっきの少年のことを訊ねた。
「・・・さあ、ヴィーヴのお友達じゃないのかしら?」アレクサンドリーヌは、その場に居合わせなかったので、即答を避けた。
 アレクサンドリーヌの双子の姉ジュヌヴィエーヴの友人たちも、同じ時期にここへやってきていた。クラリスも、去年のメンバーにあの少年がいた記憶はなかった。もし、馬に乗れる少年がいたら、きっと覚えていたはずだ、とかの女は思った。乗馬ができる人たちとは、一緒に遠乗りしたからである。そのとき、厩舎にも行ったが、あの馬を見たことはない。厩舎に芦毛の馬は何頭かいたが、あの馬の場合は、文字通り「真っ白」であり、クラリスはあれほど白い馬を見たことはない。あれは、きっとあの少年の馬に違いない。それにしても、いったい誰だろう?
 オーケストラのメンバーの何人かもその会話を聞いていた。
 しかし、少年を知っている人は誰もいなかったのである。
「・・・白馬の王子様、だね?」ゴーティエがからかいぎみに訊ねた。
 クラリスはほほえんだ。「残念でした。年下の男の子には興味がないんです」
 その場にいた何人かは、思わず笑い出した。
「・・・年上だったらどうかしら・・・?」
 クラリスは振り返り、真っ赤になった。
 そこに立っていた青年も、自分の髪と同じくらい赤くなって立っていた。
 クラリスは、彼の手からパート譜を取り上げた。
 彼は、うらめしそうにかの女を見た。「あなたは、いつかも、そうやってわたしから楽譜を取り上げましたよね?」
「あなたの楽譜じゃないからよ」クラリスはそう言った。「あなたのは、誰が持っているのかしらね?」
 そう言って、クラリスは歩き出した。
「行ってしまうの、クラリス、この間みたいに、また・・・?」青年が言った。
「楽譜を探しに行くだけよ、ロビー」
 クラリスは、ロベール=フランショームに再会して、かなり動揺していた。かの女は、一刻も早くこの場を立ち去りたくてたまらなかった。
 彼の方は逆に、かの女と離れたくなかったのである。
「話したいことがあります」彼は、小声でささやいた。「今晩10時、生け垣のところで待っています。来て下さい」
 クラリスは、早足になった。彼は、思わずかの女の手を取った。クラリスは振り返った。
「クラリス、お願いだから、来て下さい。あなたが来るまで、いつまでも待っています」
 クラリスは、手を引っ込めた。「約束できません。なぜ、そんなに遅く、あなたに会う必要があるんですか?」
 そう言うと、かの女はいそいでその場を去ったのである。
 残されたロベールの方は、一瞬、クラリスを追って駆け出そうとしてから、思い直したかのようにステージの方へと歩き出した。自分の衝動的な行為を恥じ入っているかのようであった。
 その様子を、エマニュエルとゴーティエがあぜんとして眺めていた。二人とも、複雑な思いでこの様子を見つめていたのである。
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