年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第33章

第599回

「実は、コルネリウスは、手のことを全く知らないわけじゃないんです」シャルロットが言った。「予選のとき、手のことでドクトゥール=ダルベールと言い争っていたのを見られてしまって、とっさに嘘をついたんです。最終選考の直前に転んでねんざしたんだと。だから、彼は、予選の前から手がおかしかったことには気がついていません」
「最終選考の直前に転んでねんざした」ド=グーロワールが繰り返した。「なるほど。ドクトゥール=ダルベールがそれを証明できれば、何の問題もないじゃないか。そう、ドクトゥール=ダルベールに、診断書を書いてもらうんだよ。その事情で右手が使えなくなったという内容の診断書をね。そうすれば、きみは、筆記試験を免除されることになる。手を使えない本当の理由を説明しなくても済む。マルフェも本当のことを知ることはない。リュス、お願いだ。放課後、かの女と一緒に研究所に行って、アンブロワーズに診断書を書いてもらってきて欲しい。そうすれば、全部うまくいく」
 ワッセルマンはびっくりしていた。
「お願いします、ドクトゥール=ワッセルマン」シャルロットも言った。
 ワッセルマンは真面目な顔でうなずいた。「わかった。秘密は守るよ。そして、きみたちの共犯になる」
「ありがとう、リュス」ド=グーロワールが言った。「さあ、教室に戻りなさい、プティタンジュ。手のことは、診断書を書いてもらうまでは、何も言うんじゃないよ」
「ありがとうございました」シャルロットは二人に頭を下げ、研究室から出て行った。
 ワッセルマンは、かの女の後ろ姿を見送ってから、友人の方にうさんくさい視線を向けた。
「・・・フレディ、ぼくの考えすぎではないことを祈るが、きみは、何か良からぬことをたくらんでいるんじゃないのか?」
「何か良からぬことだって?」
「きみが忘れているとは思えないのだがね」ワッセルマンが言った。「昔、あるオーベルニュの少年は、ある赤毛の少年を恨んでいた。二人は、あるコンクールで顔を合わせた。そして、オーベルニュの少年は、コンクールの優勝候補だった。だが、アクシデントが起こった・・・」
「それとこれと、どんな関係があるというの?」ド=グーロワールは肩をすくめ、遮った。
「コンクールで右手を痛めた少女と、ライヴァルの赤毛の少年・・・」ワッセルマンは友人の目を見つめた。「まさかとは思うが・・・」
 ド=グーロワールは笑い出した。「何を言うのかと思えば! リュス、ぼくは教師なんだよ。二人とも、ぼくの生徒じゃないか。誰にも危害を加えることはないよ。約束する。心配しないで欲しい」
 ワッセルマンは心配そうに友人を見つめていた。
「ぼくは、敵討ちのチャンスを得たんだよ。だから、それを実行するだけだ」
 ワッセルマンは口を開いた。「誰が、その敵討ちのターゲットなんだい?」
「きみは、シャルロットのことになると、どうしてそんなに心配そうな顔をするんだい?」ド=グーロワールがからかい気味に訊ねた。
 ワッセルマンは赤くなった。「からかわないでくれ!」
「おや、図星だね?」ド=グーロワールはにやりとした。「じゃ、あとのことは頼むよ、リュス。忘れないでくれ、ぼくたちは、共犯者なんだよ」
 ド=グーロワールは、持っていた答案をテーブルできちんとなおしてから、ゆっくりと部屋から出て行った。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ