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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第4章

第60回

 翌日、クラリスは馬に乗ろうとして厩舎に向かった。そこには、エマニュエルが来ていた。
「一緒にどこか散歩でもしない?」
「ええ、よろこんで」クラリスは答えた。
 かの女は、馬たちを眺めた。
 そのとき、かの女はあの白い馬に気がついた。あの少年が乗っていた馬に間違いない、とかの女は思った。近くでよくよく見たのだが、芦毛と呼ぶにはあまりにも白い馬であった。首に札が下がっていて、<フォンテーヌブロー ローザンヌ ド=ルージュヴィル所有。1890年3月5日生まれ>と書かれていた。
「3月5日生まれ?」クラリスはびっくりして馬を見つめた。誕生日が一緒というのも、何かの縁かもしれない・・・とかの女は思った。
 かの女は、その馬に乗ってみたいと思った。しかし、馬は、あの少年のものである。無断で乗ってはいけないと思ったのである。
「その馬に乗るんですね。鞍を準備しましょうか?」エマニュエルが訊ねた。
「・・・いいえ、乗らないわ。これは、あの少年のものだわ」クラリスが言った。
「でも、乗りたいんでしょう? 彼に聞いてみますか?」
「いいえ。彼は、ここにはいないわ。どうやって確認するの? 屋敷に戻る?」
 エマニュエルはちょっと考えてから言った。
「大丈夫、あとで断わっておけばいいんですよ。おとなしそうな、いい馬じゃありませんか」
 彼は、そう言うと、手早く鞍をつけ、厩舎から引き出した。
 クラリスは、その馬にまたがった。
 そのとたん、馬は急に竿立ちになった。クラリスは、あわてて馬の長いたてがみをつかんだ。その瞬間、馬は走り出していた。
「クラリス、馬の首につかまるんだ!」エマニュエルはそう叫ぶと、一番近くにいた馬を厩舎から引っ張り出し、鞍もつけずにまたがると、白い馬を追跡した。
・・・やがて、クラリスの意識が戻ったとき、かの女はやわらかい草の上に横たわっていた。エマニュエルが、心配そうにのぞき込んでいた。
「・・・大丈夫?」
 クラリスは、状況がよくわからなかった。それで、一番最初に思いついたことを訊ねた。
「・・・フォンテーヌブローはどこ?」
「フォンテーヌブローだって?」エマニュエルは面食らったように訊ねた。
 クラリスは、上半身起きあがって、あたりを見た。
 白い馬の姿は、そこにはなかった。
「馬がいないわ」クラリスは、思わず泣き出した。「どうしましょう・・・?」
 エマニュエルもあたりを見た。
「それより、怪我はなかった?」彼は、かの女のそばに座った。
「・・・馬がいなくなってしまった・・・」クラリスはそう繰り返すばかりであった。
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