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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第34章

第614回

 十文字美那子は、自分で言うほどおてんばな少女ではない、とクラスメートたちは思った。
 しかし、それは、新学期が始まるまでのことだった。
 新学期が始まった日、美那子はクラスメートたちに案内されて校長室に向かっていた。
 松葉杖をついていたシャルロットが列の最後尾を歩いていた。
 突然、美那子は立ち止まり、次の瞬間シャルロットの方に向かって走った。シャルロットがびっくりしていると、かの女は立ち止まらず、シャルロットの後ろから突然現われた少年を投げ飛ばしたのである。
 その場にいた全員がびっくりしたが、一番驚いたのは投げ飛ばされた本人であった。
 フランソワ=ジュメールは、背中をさすりながらゆっくりと起きあがった。「ぼくが何をしたって言うんだ、マドモワゼル?」
「あなたは、襲いかかろうとした」美那子は慣れないフランス語で言った。
「襲いかかろうとした?」フランソワはきょとんとした。
「あなたは、シャルロットに襲いかかろうとしたでしょう?」今度は英語だった。
 フランソワはびっくりした。そして、笑い出した。彼は、英語で言った。「襲いかかる? ぼくは、プティタンジュに挨拶しようとしていただけだ。危害を加えるはずないじゃないか、クラスメートだぞ」
 美那子はびっくりしたようにシャルロットを見た。
「この人は、クラスメートよ。フランソワ=ジュメールというの」シャルロットが言った。「それにしても、今のは何? どうやって、こんな大きな男の人を投げ飛ばせるの?」
「これは、柔術よ」美那子が説明した。「彼をびっくりさせただけ。ごめんなさい、怪我はなかった?」後半はフランソワに対する質問だった。
「ない」フランソワは頭をかいた。「まさか、こんな美人に投げ飛ばされるとは思っていなかったな。ぼくに、多少ジュウジュツの心得があって良かった。そうでなかったら、今頃、怪我をしていたかもしれないよ」
「あら、ずいぶん手加減したんだけど・・・」美那子は英語でつぶやいた。
「ジュウジュツといえば、確か、ミューがやっていたスポーツよね」シャルロットがフランソワに言った。「彼もこんなに強いの?」
「どうだろうね」フランソワが言った。「少なくても、この地区には、彼より強い人間はいないが」
 美那子はびっくりした。「この学校に、柔術ができる人がいるの?」
「クラブがある」フランソワが言った。「一番強い少年は、あなたより少なくても40キロ以上体重があると思うよ。ぼくより10キロは重いからね」
 そう言うと、フランソワはかの女に握手するために手を差しだした。「ぼくは、2年7組のフランソワ=ジュメール。あなたは?」
「ミナコ=ジュウモンジ。あなたの新しいクラスメートよ」美那子は握手に応じた。「いきなり投げ飛ばしてごめんなさい。とんでもない挨拶をお許し下さい」
「あなたが、きちんとした挨拶を知っていてうれしく思うよ」フランソワが答えた。
「あら、わたし、いつでも男性を投げ飛ばすわけじゃないのよ」美那子が言った。「でも、フランスのレディのきちんとした挨拶の仕方を、これからちゃんと勉強しようと思うわ」
 しかし、このときの目撃者たちの話は、瞬く間に学校中におおげさに伝わった。大柄なフランソワが宙に舞った話は一人歩きし始めた。日本から来たサムライは、実像以上におてんばな少女だと思われてしまったのである。
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