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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第34章

第616回

 コルネリウスの隣の席だったサルヴァドールは、それと同じ絵を見たことがあった。以前、音楽理論の授業中に、得意そうに説明しているドランドの様子を見ながら、コルネリウスがノートに落書きしていた絵が、今、黒板に落書きされている。彼は、とっさに、親友が落書きをしたのだと思った。
「なんてことを!」サルヴァドールは思わず叫んだ。そして、彼は教室から飛び出していった。
 その間に、コルネリウスとシャルロットが一触即発の状態になったのを見ていたフランソワが、二人の喧嘩に参戦した。
「そうだ。犯人はかの女じゃない。だとすると、犯人は誰だろうね?」フランソワが言った。
「何が言いたい?」コルネリウスは低い声で言った。
「犯人は、かの女に罪を着せようとした。かの女が犯人にされたとき、一番喜ぶ人間が、真犯人じゃないのかと言いたいのさ」
「一番喜ぶ人間?」コルネリウスはいつもの皮肉めいたほほえみを浮かべた。
「そう、きみだ」フランソワは、吐き捨てるように言った。
 コルネリウスの目に怒りが浮かんだ。「そのぼくを一番嫌っているのはきみだ、アンシャン。どうやってもぼくを犯人にしたいということは、きみが容疑者だからだ」
「ぼくを疑うのか?」フランソワは怒りのために真っ赤になった。
「きみは、ぼくと同じくらい怪しい」コルネリウスはばかにしたように言った。「誰かを犯人にしたがっていることが、その証拠だ。自分以外に実行犯の存在が必要なのは、自分が怪しくないと思われたいからだ」
 フランソワは思わずコルネリウスに向かって手をあげかけた。
「やめて、二人とも!」シャルロットが叫んだ。少女たちは口々に悲鳴を上げた。
 そのフランソワを、ウラジーミルは後ろからおさえつけた。「やめるんだ、アンシャン!」
 しかし、フランソワは頭に血が上りすぎていた。彼は親友を振りきった。それを見ていたほかのクラスメートたちがいっせいにフランソワを押さえつけた。
「ぼくは、きみを許さない。きっと自白させてやる!」フランソワが捨てぜりふをはいた。
 コルネリウスは、鼻で笑った。「それだけ怒るのが、怪しいという証拠なんじゃないのか?」
 そして、コルネリウスは悠々とした足取りで自分の席に向かった。
 そのとき、黒いペンキを持ったサルヴァドールが戻ってきた。彼は、教室の雰囲気が何か変なことに気づいていたが、かまわずに黒板の絵の上に黒いペンキを塗り始めた。
 それを見ていた少女たちも、ゆっくりと自分の席に戻り始めた。フロランスは、青ざめて立ちつくしていた十文字美那子の肩に手をかけた。
「・・・大丈夫、あの二人は、いつでも喧嘩ばかりしているの。気にしなくていいわ」フロランスは、二人の男子生徒の会話のほとんどが理解できなかったはずの美那子に、英語で優しく声をかけた。
 美那子は、しょんぼりとした様子で自分の席に着いた。
 黒板の修復が済むと、サルヴァドールはペンキを片づけに行った。
 サルヴァドールが戻ってきたときには、教室に静けさが戻ろうとしていた。彼は、席に着く前に、クラスメートたちにフランス語と英語でこう言い渡した。
「いいかい、今日のことは、絶対にほかの人には話さないこと。そして、犯人探しは止めること。約束して欲しい」
 フランソワとコルネリウスだけはそっぽを向いた。
 サルヴァドールは短いため息をついた。
 落書き事件は、こうして一段落したかに見えた。
 しかし、この事件は、この時点では誰一人考えていなかったような展開をしていくことになるのである。
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