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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第34章

第620回

 フランソワは思わず顔をしかめた。「間違っても、おめでとうとは言わないだろうな」
 シャルロットは苦笑した。
「ぼくがアランだったら、結婚式場に、あのときのヴェールを持っていく。それから、ピストルとかナイフをね。そして、かの女が彼のものになる前に、かの女を殺して、持っていたヴェールをかの女の体にかけるんだ。そして、自分もその場で自殺する」フランソワが答えた。
 シャルロットは驚いたようにフランソワを見つめた。かの女は、フランソワがそんなに大胆なことをするような男性だと思ったことはなかった。
「・・・でも、マクシムは?」シャルロットは思わず訊ねた。「彼は、あなたの---アランの親友だったんでしょう? あなたを裏切った彼に、あなたは何もしないの?」
「マクシムは関係ないよ。アランは、アニーに裏切られたんだ」フランソワが答えた。
 シャルロットは、今度は感心したような表情でフランソワを見た。「完璧な答えだわ。あなたは、間違いなくアラン=ドルスタンスだわ。この小説<悲しき白鳥>は、あなたが言ったとおりの結末なのよ。ただ、より正確に言えば、アランは自殺しなかったんだけど」
 フランソワは驚かなかった。「やはり、アランは、ぼくの想像通りの人だったんだね」
 そのとき、ドアのところからコルネリウス=ド=ヴェルクルーズが声をかけた。
「それはよかった。きみに殺されてはたまらないからね」
 3人は、一斉にドアの方を見つめた。
「どういうことさ?」フランソワが訊ねた。
「ぼくは、きみの親友の役のオーディションを受けようと思っていたんだ」
「マクシム=デュラン役?」ウラジーミルが訊ねた。
 コルネリウスはうなずいた。「より正確に言えば、マクシムとエマニュエルの二役だ」
「きみたちが親友?」ウラジーミルは思わず首をかしげた。
「いや、アニーの存在で、二人は親友ではいられなくなる・・・んだったよね?」
 シャルロットはうなずいた。「そうよ、マルフェ」
「マクシムはともかくとして、殺人犯エマニュエル=カンパネルは、きみにぴったりの役柄だろう」フランソワが冷たい口調で言った。
「喧嘩を売る気か?」コルネリウスは殺気だった表情で言った。「きみさえその気なら、いつだって買ってやる」
 シャルロットはにっこりした。「その調子なら、あなたも、エマニュエル=カンパネル役が似合いそうね、マルフェ」
 コルネリウスは怒っていたのを一瞬忘れた。三拍くらい遅れて、彼は、いつもの皮肉めいたほほえみを浮かべた。「・・・ほめ言葉だと思っておくよ、プティタンジュ」
 そう言うと、彼は自分の席に着き、台本をひろげた。
 フランソワの体からも緊張が解けた。彼は、もう一度ピアノの前に座った。
 その日、ド=グーロワールが教室に顔を出すまで、彼はピアノを弾きつづけた。
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