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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第34章

第623回

 そこに立っていた少年の一人が、リシャール=マティスだった。
「・・・知らなかった・・・きみも、チェリストだったんだね・・・?」リシャールは感動しきった様子だった。
 シャルロットは首を横に振った。
「手は、もういいの?」
「動くようになったの・・・治らない覚悟をしていたのに・・・」シャルロットはそう言うなり、涙ぐんだ。
「マドモワゼル=チャルトルィスカ」リシャールは真面目な顔で言った。「今度こそ、<イスタール>を演奏してくれますね?」
「もちろんよ」シャルロットはそう言い、ほほえんだ。
 リシャールもほほえんだ。「まず最初に報告したい人がいるんだけど、一緒に来てくれる?」
「いいわ」シャルロットが答えた。そして、振り返ってフランソワーズに挨拶した。「ありがとう、レイディ=ファンシェット。いつかまた、一緒に演奏しましょう」
 フランソワーズはうなずいた。
 シャルロットはドアを閉め、リシャールのあとについて歩き出した。
 彼は、同じ階にある練習室の一つの前で足を止めた。そして、窓越しに一人の少年を指さした。
「・・・彼を知っているよね?」
 シャルロットはうなずいた。「・・・ヴィトールド=ザレスキー・・・?」
「そう。知る人ぞ知る大物だ」
「大物?」
「彼は、反ソサイエティの影の黒幕---ル=グループ=トレーズのブレインだった。あのグループの事実上のリーダーはイジドール=アルノーだったけど、そのイジドールでさえ、彼の前には頭が上がらなかった」
 ヴィトールド=ザレスキー。ル=グループ=トレーズでは、キリストの側近ナンバーワンのペトロの変名を持っていた少年だ。ザレスキー一族の若き当主だが、音楽家向きではないともっぱらの評判である。学校では秀才として知られている。この前のテストでも、総合二位の成績だった。
 シャルロットは、彼をじっと見つめていた。彼はヴィオラを弾いていた。目を閉じていたし、顔を伏せ気味にして演奏していたので、噂の<ザレスキー一族の美しい目>を見ることはできなかったが、穏やかな顔立ちをした少年だということはわかった。彼は、大きな木のような感じの少年だった。彼を見ると、大地にしっかりと根を下ろした木のそばにいるような安心感があった。優しそうな人に見えたが、口元がきりっとしていて、ただ優しいだけではなく、意志の強い人間であることは間違いなかった。どちらにしても、かの女は、これまでこんなタイプの人間を一人しか知らない。それは・・・。
「・・・会ってみる?」リシャールがささやいた。
「ええ」シャルロットがやはりちいさな声で答えた。
 リシャール=マティスは、ドアを強くノックした。ヴィトールドは、ドアの方に顔を向けた。彼は、ドアをノックした人物が誰かわかると、ヴィオラを肩からはずして、ザレスキー一族特有のあの人なつっこいほほえみを浮かべた。
「やあ、リシャール。何か用かい?」ヴィトールドは優しく訊ねた。
「今日は、きみに会わせたい女性を連れてきたんだけど、会ってもらえるかな?」リシャールが言った。
「きみの恋人かい?」ヴィトールドはほほえんだ。「ぜひ会ってみたいものだ」
 リシャールは真っ赤になって一歩横に動いた。そこに立っていたちいさな少女を見て、ヴィトールドは驚いた。
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