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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第34章

第624回

「かの女は、ぼくのイスタール---シャルロット=チャルトルィスカだ」リシャールが言った。「そして、彼は・・・」
 シャルロットは、リシャールが紹介する前に一歩前に進み出た。「初めまして・・・と言っても、初めて会うわけじゃないですよね。お話しするのは、これが初めてだと思いますが・・・。シャルロット=チャルトルィスカです。ピアニーナ=ザレスカの曾孫にあたります。そして、あなたは・・・」
 そう言うと、シャルロットは、懐かしそうな表情を浮かべた。「・・・あなたは、彼にそっくりだわ・・・」
「彼って、誰に?」ヴィトールドは穏やかな口調で訊ねた。
「アファナーシイ=ザレスキー氏に、ですわ」
「・・・」ヴィトールドは言葉につまった。いきなりポーランドの祖父の名前が飛び出すとは思わなかったのである。
「ザレスキー一族ねえ・・・」リシャールはにやりとした。それは、シャルロットが見たことがないリシャールの表情だった。「知ってる、トト、きみとシャルロットの兄妹説を?」
「もちろん」ヴィトールドは落ち着きを取り戻し、ほほえんだ。「『今度編入してきたあの女の子、本当はきみの妹なんだろう?』って、何度聞かれたかな?」
 シャルロットは初耳だった。かの女に対して、ヴィトールドが兄かどうか聞いてきた人は誰もいなかったのである。
「年下の妹さん、あなたは、本物の音楽家のようですね。このリシャール=マティスという男は、尊敬できる人にしか興味を持たないんだ」ヴィトールドがシャルロットに向かって言った。
「あなたは、尊敬できる人でしょうね」シャルロットが言った。
「ぼくたちの関係は違うよ。ぼくと彼とは、3年間、クラスメートだった」
「ぼくは、留年してね・・・」
「いや、彼は、1年間イギリスにいたんだよ。勉強で留年したわけじゃない」ヴィトールドが言った。
「かわりに弁解してくれてありがとう」リシャールは笑っていた。「彼と一緒じゃなくなったおかげで、念願の学年トップの成績になれたよ。そして、彼の方は、相変わらず学年トップさ。彼はね、入学以来、ずっとトップなんだ」
「いや、入学したときは、トップじゃなかったよ」彼は寂しそうに言った。
「結果的に、そのときの一位の子は入学しなかったんだから、トップと一緒さ」リシャールが言った。その調子は、リシャール自身の自慢をするときのヴィルフレード=フェリシアーニを思い出させ、シャルロットは面白いと思った。
「どうして、この学校に入学したの?」シャルロットはヴィトールドに訊ねた。
「ド=ラグランジュ校長に拾われたんだ、汽車の中でね」彼は何かを思い出すような目をした。「この学校においで。きみなら何とかやっていけるよ。きみなら、きっと奨学金を取れるはずだ、って言われてね・・・。家出して外国にやってきたぼくには、彼の優しさが有難かった・・・」
「わかるわ・・・」シャルロットは静かに言った。
「アファナーシイおじいさまは、完璧を望む人だった。いや、ぼくがザレスキー家のトップになるべくして生まれてきたばっかりに、完璧を望んだんだろうがね。でも、小さかったぼくには、それがわからなかったんだよ。彼は、『ヴィテック、おまえは、第12代ザレスキー家当主として、ザレスキー一族の名に恥ずかしくない立派な音楽家になりなさい』と口癖のように言っていた。そして、ぼくをパリに行かせたがって、音楽の勉強と同じくらいフランス語の勉強を強要した。そして・・・」ヴィトールドは目を閉じた。「・・・そして、あの日がやってきた・・・」
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