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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第34章

第627回

 翌日、オーディションが行われ、すべての配役が決まった。主役のアラン=ドルスタンスにはフランソワ=ジュメール、ヒロインのアニー=ド=リリーズにはエリザベート=ド=ノールマンが決定した。監督フェルディナンド=フェリシアーニが<この劇のかなめ>と評した二人組、マクシム=デュランとアンドレ=グラボフスキーには、コルネリウス=ド=ヴェルクルーズとサルヴァドール=クートンが決まった。監督としてはグラボフスキー役に少々不満を感じていたが、オーディションを見ながら、フランソワ以外ではサルヴァドールが最もイメージに近いかもしれない・・・と考え直した。一方、コルネリウスの方は、監督が初めから考えていた配役だった。オーディションを見て、<まるでマルフェのために作られたような役>だとあらためて実感したのである。
 シャルロットは、監督と一緒にオーディションの審査をしたのだが、監督がコルネリウスをほめているのを聞き、複雑な気持ちを抱いていた。監督が知るよしもなかったのだが、マクシム=デュランは、シャルロットがコルネリウスのイメージで作ったものだった。
 台本を作る段階で、シャルロットは二つの小説を混ぜ合わせた。一つは、ポーランドの女流作家ゾフィア=レシチンスカの<悲しき白鳥>、もう一つはシャルロット自身が昔書いた<秋のファンテジー>だった。主なストーリーは<悲しき白鳥>だったが、登場人物名のほとんどはシャルロットの作品から取った。<秋のファンテジー>の主人公マクシム=デュランは、昔のコルネリウスが下敷きになって作られた人物だった。劇では、<悲しき白鳥>のアラン=ドルスタンスとアニー=ド=リリーズが中心になってしまったので、マクシムは脇役になってしまったのだが、本来、<悲しき白鳥>はアニーとマクシムの恋愛が描かれた作品であり、マクシムの役割は軽いものではなかったのである。ただ、フェルディナンド=フェリシアーニは<監督>だけあって、オリジナルの小説を知らないにしても、台本を読んだだけで、劇のキーパーソンを正確に読みとってしまったのである。彼は、グラボフスキー役にお目当ての人物を起用できなかった分、コルネリウスに期待することにしたのであった。
 配役が決定すると、監督は、裏方にまわる人たちを集めた。大道具・小道具を担当する中心人物に十文字美那子を起用し、シャルロットの音楽が完成するまでに手が空いている人たちで舞台装置を完成させることにした。シャルロットが音楽を完成したあと、舞台音楽を演奏するための少人数の楽団を結成し、それ以外の人たちで舞台装置を担当することになった。
 シャルロットは、奇跡的なスピードで音楽を完成させた。かの女は、5人の中心人物(アラン、アニー、グラボフスキー、マクシム、イレーヌ=ファブリエ)のために、それぞれ2小節のモティーフを作った。そして、そのモティーフから、登場人物のテーマといえる固有のメロディーを作り上げた。音楽を担当する裏方は全部で8人だけだった。その8人には、役を持っている人たちも含まれた。だから、ステージに出る人たちを除いた編成で音楽を作らなければならないという制約まである中で、シャルロットは何とか舞台音楽を完成させた。一番好評だったのは、バルバラ=ヴィエニャフスカ(イレーヌ=ファブリエ役)が歌う<立ち止まって、わたしの目を見て、マクシム>という歌詞から始まるアリアだった。
 もう一つは、グラボフスキーのテーマから作られた葬送行進曲であった。グラボフスキーのテーマは、フルートとピアノだけで演奏される。このテーマがなるだけで、グラボフスキーの登場だとわかるくらい印象的なメロディーだった。スタッフたちには、主人公たちのテーマより、こちらのほうが好評だった。
 シャルロット自身は、裏方の演奏家たちの中でも異色の存在だった。8人しかいない演奏者は、全員そろう場面でさえ6通りの楽器の演奏だった。シャルロットは、ピアノ・ヴァイオリン・チェロの3種類の演奏ができる貴重な存在だったこともあり、一人で楽器をかけもちした。
 午後の授業に完全に復帰していないシャルロットは、ふだんの舞台練習のときには、ただ一人でピアノを演奏した。休日以外では、まとまった練習はできないので、練習も細切れで行われることが普通だった。さらに、音楽担当者たちは、劇の練習が終わったあとで、別に集まってアンサンブルの練習をしていた。シャルロットは、その練習にも参加していた。
 この日の午後一番に教室にいたのは、コルネリウスとエリザベートだけだった。そこで、監督は、初めの方の場面を指定した。そこにいない役は監督が代行することになっていた。
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