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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第34章

第628回

 シャルロットは、ステージに見立てられた教壇にコルネリウスとエリザベートが現われるのを見て、ピアノを弾き始めた。
 それは、第一幕の病院の場面だった。アニー(エリザベート)は、怪我がひどかったアランの病室を訪ねようとする。そのとき、親友のマクシム(コルネリウス)が病室から出てくる。マクシムは、アニーに気がつき、声をかける。二人の話は、アランの病状の話にうつる。
 シャルロットは、舞台をちらちら見ながら、目の前の楽譜のことを考えていた。次に音楽が入るのは、アニーが病室の中に入ったところである。だから、しばらく演奏する必要はなかった。ただ、今弾いた部分は、もう少し手直しの必要がありそうだと思ったのである。忘れないうちにメモしておかなくては・・・シャルロットはそう思った。
「・・・それじゃ、あの人は、わざと馬車の前に飛び出したというのですか?」エリザベートが言った。
「そうです」コルネリウスは無感動な調子で答えた。
 そこへ、フェルディナンドが台本を握りしめて出てきた。「マクシム、そこで目をそらすんだ!」
 コルネリウスはフェルディナンドの方に目を移した。
「マクシムになりきってよ。いいかい、<心を奪われたようにアニーを見つめたまま、上の空で返事する>。ここまではいい。そのあと、どう書いてあった?」
 コルネリウスは台本を見た。「<・・・そして、そっと目をそらす>」
「そうだ。じゃ、いいかい、もう一度」そう言うと、監督は、自分の椅子に座った。
 コルネリウスは、エリザベートを見つめた。
「まさか。それじゃ、あの人は、わざと馬車の前に飛び出したというのですか?」
 コルネリウスは、エリザベートをせつないまなざしで見つめ、そっと目をそらした。「そうです」
 そう言うと、彼は、かの女に背を向けた。台本にはなかったが、なかなか効果的な動き方だ、と監督は思った。
 その後ろ姿に、エリザベートはそっと呼びかけた。「でも、どうしてそんなことを?」
 コルネリウスは振り返った。台本通り、かの女に夢中だという表情で・・・。それを見て、エリザベートは思わず真っ赤になった。
「お願い・・・そんな風に見つめないで」エリザベートは口ごもった。
 楽譜を訂正することだけを考えていたシャルロットは、エリザベートの声を聞き、はっとして仮設ステージを見た。
 フェルディナンドは怒り出した。「ショップ、もっとアニーになりきるんだ!」
 シャルロットは、エリザベートの口調が気になった。かの女は、エリザベートを見つめ、恐ろしいことに気がついた。
 エリザベートは、コルネリウスを愛している!
 シャルロットは、自分が見た場面を否定しようとした。
 エリザベートには、クラス公認の恋人がいる。ジュール=ド=メディシスだ。二人の仲がいいことは、クラスメートなら誰でも知っている。少なくても、ジュールの方はエリザベートに夢中である。それは、まだほんの子どもであるシャルロットにもよくわかっていた。シャルロットは、エリザベートの方もそうだろうと思っていた。だから、かの女は、自分が見たものは錯覚かもしれないと思ったのである。
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