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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第4章

第62回

「あなたは、ザレスキー一族ですね?」クラリスが少年に訊ねた。
 ルイ=フィリップは、クラリスをじっと見つめ、穏やかな口調で答えた。
「ええ、そうです。ぼくは<ザレスキー一族(パィンストフォ=ザレスツィ)>と呼ばれる一族の一人です」
 クラリスはびっくりして訊ねた。「あなたは、ポーランド人なんですか?」
「どうして、そんなことを?」少年は逆に訊ねかえした。
「以前、わたしにザレスキー一族の話をしてくれたポーランド人の友人---かの女もここに来ているんですけど---が、そんな風に自己紹介してくれました」クラリスが答えた。「とてもきれいな響きですね」
 彼はしばらく黙っていた。やがて、静かな口調でこういった。
「ぼくの母は、ポーランド人でした。もう亡くなってしまったのですが・・・」
 クラリスは、思わず下を向いた。
「・・・ところで、あなたも、ザレスキー一族ですね?」
 クラリスは顔を上げ、首を横に振った。
「まさか」少年が言った。「あなたのその目・・・亡くなった母にそっくりです・・・」
 クラリスはもう一度首を横に振った。「わかりません。そう言われたのは、これが初めてじゃないんですが・・・」
「違うんですか?」
「わからないんです。わたしは捨て子でした。育ての親からは、生年月日しか聞いていません」クラリスが言った。「フォンテーヌブローに興味を持ったのは、彼がわたしと同じ誕生日だったからです」
 少年はびっくりした。「3月5日生まれ?」
「あなたは、馬の誕生日を覚えているんですか?」クラリスが思わず訊ねた。
「ええ、それは、特別な日ですから。それより、なぜ誕生日がわかったんですか? その誕生日、っていうのは、あなたが拾われた日ですか?」
「いいえ。わたしの本当の親は、わたしの生年月日を残してくれたんだそうです。拾われたとき、わたしは生年月日入りのメダイを首に下げていたそうです」
 少年は、青くなった。「1875年3月5日、と刻まれたメダイを、ですか?」
「ええ」それがどうかしたの?という表情でクラリスが答えた。
「で、そのメダイは、どこに?」彼は、さらに追求を続けた。
「知りません。わたしは、実物を見たことはありませんから」クラリスが答えた。「わたしを拾った人なら、そのありかを知っていると思いますが、彼らは、もはやこの世の人じゃありません。今となっては、もう何もわからないでしょう・・・。でも、どうして、そんなことを聞くのかしら?」
 少年は、優しい口調で言った。「わたしには、1875年3月5日生まれの姉がいました。生まれてすぐに、火事で死んでしまったと聞いています」
「火事で・・・?」クラリスは、恐ろしそうに繰り返した。そういえば、以前、ナターリア=スクロヴァチェフスカがそんな話をしたことがあった。<火事>という言葉を聞いて、クラリスは急にそれを思い出した。「・・・ああ、以前、ナターリアがその話をしたことがあったわ・・・」
「ナターリア?・・・ああ、いとこのナターシャのことですね?」少年が言った。
 クラリスはうなずいた。
「ナターシャも、ここに来ているんですか?」少年は、ちょっとうれしそうな顔をした。
 クラリスはもう一度うなずいた。
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