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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第35章

第641回

 シャルロットが休んでから3日たった。
 2月14日金曜日の朝は、小雪がちらつき、とても寒かった。
 サント=ヴェロニック校では、ストーヴの上の洗面器の水が凍ったら教室に暖房が入るという決まりになっていたが、この日は、水を確認しなくても、火をつけなければならないとわかるような日だった。
 バルバラ=ヴィエニャフスカは、シャルロットが部屋で寒さに震えていることを知っていた。
 生徒たちには、通常、一日に薪が5本しか与えられない。この日は、四旬節中の金曜日だから、薪の数はもう一本少ないはずだ。一日中部屋にいるシャルロットも例外ではない。罰だというので、サン=ティレールがそう命令している。その薪をどううまく使おうと、一日中寮にいるかの女には、5本(4本)はあまりにも少なすぎた。かの女は、サン=ティレールが自分を痛めつけるのが目的だと知っているので、助けを求めずに我慢していた。隣の部屋のバルバラとヴィルヘルミーネは、監視の目を盗んでシャルロットに会いに行き、その状況を知っていて、心を痛めていた。
 その日、ラザール=ドランドの音楽形式理論のあとの休み時間に、シモン=グロがフランソワ=ジュメールのところにやってきて、いつものように前の時間の復習をしていた。ドランドがやたらと質問をされることを嫌うので、シモンなどは、わからないことがあるとフランソワを頼りにしていた。
「・・・つまり、ソナタ形式には、2つ以上の主題がなくてはならないんだ」フランソワは丁寧に説明した。
 フランソワの隣の席のコルネリウスは、冷たくシモンを見ていた。『こんな簡単なこともわからないのかい?』という表情だった。彼には、それも気に入らなかった。
「ぼくが聞いたのは、ソナタ形式と三部形式の違いだよ」シモンは、いらいらしたように言った。
「ソナタ形式には、2つ以上の主題があって、それぞれがなんらかの関連がある。そして、三部形式は・・・」
 フランソワとシモンの会話は、だんだん喧嘩じみてきた。
 それまでばかにしたような表情で二人を見ていたコルネリウスは、あきれた様子で立ちあがった。
「アンシャン、今日は、虫の居所がよくないようだね」コルネリウスが言った。
「余計なお世話だ」フランソワは不機嫌に答えた。
「今日だけじゃない。ここ2~3日は、ずっとこんな調子だね」コルネリウスは、お得意の皮肉攻撃を始めた。
「これ以上言うな」フランソワはコルネリウスをにらみつけた。
「ふん。誰にも命令されたくはないね」コルネリウスも怒ったような調子で言った。
「黙っていてくれと言ったはずだ」フランソワはいきなり立ちあがると、コルネリウスの机の上にあったノートを、コルネリウスめがけて投げつけた。
 コルネリウスはかっとした。「フランソワ=ジュメールともあろう人が、こんなことをするとはね!」
 フランソワは、何か言い返そうとしたが、その視線は、床に落ちたノートに釘付けになった。
 そのページには、ラザール=ドランドそっくりな猫の絵が描いてあった。それは、いつかの朝、黒板に落書きされていた太った猫の絵だった。
 コルネリウスは、ノートを床から拾い上げた。そして、フランソワを見ると、彼は怒りのために真っ青になっていた。コルネリウスは、その表情を見、彼が何を考えているのかわかった。彼は、黒板に落書きした犯人がコルネリウスだと思いこんだに違いない。
「外に出ろ、マルフェ。今日こそ、決着をつけてやる!」フランソワは、凄みのきいた声で言った。
「言っておくが、ぼくは犯人じゃない。あとで後悔するなよ」コルネリウスは、いつもの冷たい笑いを浮かべながら言った。
 フランソワとコルネリウスは教室から出て行った。誰も二人を止めるものはなかった。
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