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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第35章

第644回

 コルネリウスは考え込んだ。次々にいろいろなことが思い浮かんだ。
 車椅子に乗っていたシャルロット=チャルトルィスカと初めて会った日、気を失って倒れた彼を助けようとして、かの女は初めて歩いた。これは奇跡だ、と医者たちさえ言っていた。
『ありがとう、モン=プティタンジュ』と言ったとき、かの女はなんてうれしそうにほほえんだことだろう! そのかの女を、彼は裏切ってしまった。
『ドンニィ、あなた、それを知っていて、わざと・・・?』
 彼ははっとした。かの女は、あのとき、はっきり《ドンニィ》と呼んだ。この呼び名を知っているのは、研究所の人間を除けば、ロジェ、ミュー、ドニだけのはずだ。しかし、かの女は、あの日までにほかの3人とは一切接触していない。
---かの女は、シュリーなのか?
 彼は、そう信じたかった。しかし、かの女は、研究所の人間と接触がある。ユーフラジーの本を借りてくるくらい、所長代理たちに信用がある。そもそも、所長代理たちは、彼を昔のように《ドンニィ》と呼ぶ。だから、それだけでは、かの女がユーフラジーだという証拠にはならない。でも、ユーフラジーでないのなら、なぜ自分を《ドンニィ》と呼ぶのだ?
 彼は首を振った。激しい痛みが襲った。そう、フランソワ=ジュメールが彼を殴った。フランソワは、シャルロットに頼まれて彼を殴ったのだ!
 そのとき、シャルロットが布を持って戻ってきた。かの女は、コルネリウスがかの女をにらみつけているのを見て気後れした。
「・・・気がついたのね?」ようやくかの女はそう訊ねた。
「ああ」コルネリウスは短く返事をした。
「どうして、こんなにひどい怪我を・・・?」
「本当に知らないのかい?」コルネリウスは冷たく言った。「アンシャンに、ぼくを殴るようにそそのかしたんじゃないのか?」
「わたしが? どうして?」
「とぼけるな。きみは、黒板の猫を書いたのはぼくだ、って彼に言ったんじゃないの? 彼は、きみのためになら人殺しだってできる男だ。きみは、自分を愛している男を利用して、ぼくを苦しめようとするような人間だったんだね。きみを見損なったよ」
 シャルロットは当惑したようにコルネリウスを見つめた。「あなたが言うことがよくわからないわ・・・」
 シャルロットは、彼の言葉にショックを受けていた。彼は、二つのことを言った。一つは、フランソワがかの女を愛しているということ。もう一つは、フランソワが彼にこんな怪我をおわせたということ・・・。
 コルネリウスは、軽蔑したようにシャルロットを見ていた。シャルロットは、すばやく頭を回転させようとした。少なくても、フランソワをけしかけたという容疑だけは晴らさなければならない。かの女は、彼が怪我をすることを---彼が苦しむことを---望んだことはない。
「わたし、アンシャンをけしかけたりしないわ。あなたに怪我をさせようなんて考えたこともない」
「嘘だ!」コルネリウスは怒っていた。
「どうして、あなたに怪我をさせなければならないの? わたしたち、仲直りしたんじゃなかったの?」
「仲直り、ね・・・」コルネリウスは、例の冷笑を浮かべた。
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