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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第35章

第648回

 自室謹慎処分が解けた日の朝、シャルロットはいつものようにはやく教室に行った。みんなが来る前に、フランソワ=ジュメールに話があったからである。
 教室には、フランソワとウラジーミルがいた。彼らは、その日もはやかった。
 シャルロットは、フランソワを見るなり、挨拶もしないでこう言った。
「アンシャン、わたしは、たとえどんな理由があろうと、人に対して暴力をふるう人を許すことはできません」
 フランソワは驚いて言った。「何の話だい?」
「わかっているわよね。マルフェの怪我のことよ」
「マルフェの・・・?」フランソワは落ち着いて訊ねた。「彼に会ったの?」
 シャルロットはうなずいた。
「あれは、暴力じゃない。喧嘩だよ」フランソワが言った。
「いいえ、喧嘩とは言えないわ。だって、あなたは、怪我をしていないわ」シャルロットが言った。
 フランソワは赤くなった。
「あなたは、一方的に彼を殴ったのね」
「彼は、きみのためにやったんだよ」ウラジーミルは口をはさんだ。
「違うわ。彼は、マルフェを殴りたかっただけよ。とにかく、口実は何でもよかったんだわ」
 フランソワはむっとした。「口実だって? 黒板にあの猫の絵を描いたのは、彼に間違いない。あの絵は、彼のノートにあったものだ」
「知っているわ。あのノートは、あの日、わたしの机の中にあったのよ」シャルロットが言った。
 二人は驚いた。
「・・・そんな大切なことを、なぜきみは、今まで黙っていた?」ウラジーミルが訊ねた。
「犯人が自首すると思ったからよ」
 二人は、<犯人>が女性名詞だったのに気づき、驚いてシャルロットを見つめた。
「きみは、犯人を知っているの?」フランソワが訊ねた。
 シャルロットはうなずいた。
「どうして、犯人をかばったの?」ウラジーミルが訊ねた。
「犯人に、悪気がなかったから・・・」シャルロットが言った。「・・・それに・・・」
 そのとき、ドアのところに立っていた十文字美那子が言った。
「・・・あの絵は、面白い絵だった。わたし、いたずらをしてみたかったの・・・」
「ミーナ!」シャルロットが叫んだ。
「ノートがプティタンジュの机に入っていたのは、落ちていたノートを誰に返していいかわからなかったから、一番前の席の机の中に入れただけ・・・。ごめんなさい、こんなことになるなんて思わなかった・・・」美那子が言った。「だんだん、波紋が大きくなるのが怖かった・・・だから、言い出せなかったの・・・どうしていいかわからなかった・・・わたしも、ずっとつらかったの・・・」
 フランソワは、かの女の前に立った。「どうしてもっとはやく言ってくれなかったの? きみは、サムライだ。きみは、もっともっと強い人間だと思っていた・・・」
「許して下さい。そして、わたしを罰してちょうだい。どんな罰でも受けるわ。あなたが殴って気が済むのなら、いくらでも殴ってかまわない・・・」
 フランソワは悲しそうにほほえんだ。「昔のクラスメートが言った。《男性は、強くなければならない。本当に強い男性は、女性に優しくしなければならない。何があっても、女性に手をあげてはいけない・・・。》ぼくは、女性に向かって振り上げる手は持ち合わせていないんだよ」
 美那子はすすり泣いた。
「ぼくは、きみを許す。でも、マルフェはどう思うかな? 彼にも謝るんだ。いいね?」
 かの女はうなずいた。
 フランソワはシャルロットの方を向き直った。「ぼくは、きみのしたことを、すぐに許す気になれない。きみは、ぼくの心を粉々に砕いた・・・」
 そう言うと、彼は教室から飛び出していった。
 その日以来、フランソワはシャルロットと口をきかなくなった。
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