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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第37章

第666回

「ところで、どうして、ブルマイスターにヴァイオリンなんて・・・? あなたには、ピアニストとしての方が適性があると思うんだけど?」フランクが訊ねた。
 シャルロットは、困ったように彼を見た。「一言で説明するのは難しいんですが、すりかわったんです、わたしたち・・・」
「わたしたち、って・・・?」彼も解せない様子だった。
「わたしと、シャルロット=スタニスワフスカという少女が、です。どうしてそんなことになったのか、わたしにはよくわからないんですが・・・」
 彼は驚きのあまり言葉を失った。
「・・・で、わたしは、ポーランドに行って、ブローニャのかわりに5年過ごしました。そのとき、ヴィエジェイスキー先生にヴァイオリンを習ったんです、あの偉大なヴァイオリニスト、ウワディスワフ=スタニスワフスキーの娘として・・・」
 彼はやっと口を開いた。「・・・で、本当のあなたは、いったい誰なの?」
「わかりません。ザレスキー一族なのは確かですけど、それ以上のことは・・・」シャルロットは、言ってしまってから、寂しそうにほほえんだ。「・・・ごめんなさい。どうして、わたし、こんなことを言ってしまったのかしら? これまで、誰にも話したことはなかったのに・・・」
 シャルロットが涙ぐむのを見て、彼は慰めるように言った。「話してくれる、あなたのポーランドでの生活のことを・・・? きっと、全部言ってしまった方が、気が楽になるよ」
 彼は、近くのベンチまで彼女を連れて行った。
 シャルロットは、彼を見ているうちに、優しかったチャルトルィスキー公爵や、ヴォイチェホフスキーのことを思い出した。それに、ヴィトールドの祖父のアファナーシイ=ザレスキー氏のことを・・・。目の前の男性は、彼らにどことなく似た澄んだ目をしていた。かの女は、彼が信頼できる、と直感した。
 かの女は、ポーランドでの生活のことを、できるだけクラコヴィアクの話を避けて話し始めた。話は、フェリックス=オルシャンスキーのことにまで及んだ。
「・・・そのフェリックスくんだね、例の、死にそうだと言っていた少年は?」彼は同情を込めて訊ねた。
「ええ。彼は、父親を捜しに来て、病気になってしまったんです」
「で、父親の名前は?」
「なぜ、そんなことを・・・?」
 彼はほほえんだ。「わたしは、オーケストラのコンサートマスターだよ。指揮者のことなら、何か役に立てるかもしれないと思ってね」
 シャルロットもほほえんだ。「そうね。あなたなら、きっと何かご存じのはず・・・。彼の父親の名前は、ヴァーツワフ=ロマノフスキーというそうです。ポーランド人で・・・いいえ、今はポーランド系フランス人としてマルセイユに住んでいるそうです。作曲家をしている何とかという人のお嬢さんと結婚したと聞いています。わたしが知っているのは、それだけです」
「その男性がフランスに来たのは、いつ?」
「さあ、そこまでは・・・。でも、フェリックスは1899年生まれです。だから、その前後でしょうけど・・・」
 彼の顔がみるみるうちに青くなってきた。「まさか、フェリックスくんの母親の名前は、アントワネット・・・じゃないだろうね?」
「どうして、それを?」シャルロットは驚いた。「かの女の名前はアントーニナ=オルシャンスカです。アントーニナという名前は、フランス風にいえば、アントワネットということになるわ」
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