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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第37章

第669回

 パトリックはあぜんとしてフランソワを見つめた。
「どうやら、図星だったようだね。きみは、本当は、プティタンジュが恐いんだろう?」フランソワはたたみかけた。
「何だと!」パトリックは怒りのために赤くなった。
「かの女がいたら、泣いて反対されるってわかっているから、いないうちに飛びたいんじゃないのか?」フランソワは、まるで喧嘩を売るような口調で言った。
「そんなことはない!」
「じゃ、帰ってくるまで待つべきだ」
「いやだ」
 フランソワは、軽蔑したようにパトリックを見た。「・・・ほら。やっぱりプティタンジュが恐いんだ」
 パトリックはため息をついた。「あの子は、泣き虫だ」
「泣かれるのが恐いんだね?」
「だから、恐いわけじゃないんだよ。ただね・・・」パトリックは言い返そうとした。彼は、悲しそうにフランソワをみつめた。「・・・アンシャン、きみだけはわかってくれると思っていたんだけどね・・・」
 パトリックはそう言うと、そっぽを向いて行ってしまった。
 その後ろ姿を見つめ、フランソワは、彼の飛行計画を何としてでもつぶそうと決心した。彼にとって、残された最後の希望とも言えるその計画をつぶすのは残酷なことであるということを、フランソワはよく知っていた。もしかしたら、誰よりもよく知っていたかもしれない。なぜならば、パトリックが空を飛びたがっていることを一番理解していたのがフランソワだったからである。
 フランソワは、今では、飛行機のことをよく知っていた。
 かつて、町の上空を飛行機が飛んでいるのを見たことがあった。そして、自分が飛行機に乗ることを夢見たこともある。しかし、この学校に同じことを考えていた人間がいたことを、フランソワは知らずにいた。もっとはやく彼のことを知っていたら、もっと早いうちに空を飛ぶことを勧めていただろう。もし、飛ぼうとしているのが、パトリック=ド=メディシス以外の人間だったら、フランソワは大賛成だったろう。それどころか、進んで手を貸そうとしたはずだ。
 しかし、パトリック=ド=メディシスだけはだめだ。もし、パトリックが、空中で心臓発作を起こしたとしたら・・・! フランソワには見えるようだった、まっさかさまに落ちてくる機体、爆音、そして、真っ赤な炎と黒い煙・・・。そんな危険に彼をさらすことは、フランソワにはできなかった。
 友人の反対にあったパトリックは、フランソワに黙って計画を進めた。
 3月16日日曜日。外出日の朝早く、パトリックは学校の門が開くのを待って飛び出すように出て行った。目撃していたのはジュール=ド=メディシスだけだった。
 その日の朝、教会に向かおうとしていたフランソワは、朝一番のミサから戻る途中だったジュールの口からそのニュースを聞き、教会に行く時間をずらしてパトリックを追いかけることを決心した。二人は、自転車を借り、<パーシュ広場>に向かった。そうしながら、フランソワは頭を動かしていた。<パーシュ広場>といえば、ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーの研究所・病院の目の前だ。あそこから、医者を呼んでおいた方がいいかもしれない・・・。
「ディール、きみはまっすぐ広場に向かってくれ。ぼくは、研究所に行く」フランソワはジュールに声をかけた。
「研究所?」ジュールが訊ねた。
「そう。医者を呼んでくる」
「医者だって? なぜ?」
「もしものことがあったら困る、というより、もしものことが起こることになっているから」
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