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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第4章

第65回

 その日の午後、クラリスはエマニュエル=サンフルーリィの部屋を訪ねた。朝、クラリスをかばって落馬した後、医師から『2日くらいは寝ていなさい』、と言われて練習を休んだことを聞かされたからである。
 エマニュエルは、クラリスが部屋に入ってくるのを見て、ほほえみを浮かべた。
「・・・大丈夫、心配いらないのに・・・」彼は、かの女が謝罪の言葉を口にしようとするのを制した。
「わたし、あなたにお礼も言いませんでした」クラリスが言った。
「そんなこと、気にしなくていいんです。お礼を言われるためにしたわけじゃありませんから」彼が言った。「それより、何か、気がかりなことでも・・・?」
 クラリスは、首を横に振った。「一番心配なのは、あなたの状態よ」
 エマニュエルは、くすっと笑った。「信じませんよ。今のあなたは、自分のことだけで精一杯です」
「本当よ。あなたは、わたしのために、怪我までしたのよ」クラリスが真面目な口調で言った。
 エマニュエルは、笑いを引っ込めた。「いや、そうじゃない。あなたが、わたしに殺されかけたんです」そういうと、真剣な表情になった。
 クラリスは否定しようとした。
「わたしが、あなたにあの馬に乗るように勧めたんです。悪いのはわたしです。あなたは、あの馬に乗った。そして、あの馬が急に生け垣に向かって駆けだした・・・」エマニュエルが震える声で言った。「そして、そのまま生け垣を飛び越えて行ってしまった。あなたは、『助けて』とさえ言わずに馬にしがみついていました。あのままだったら、振り落とされて死んでいたかもしれません」
「・・・たぶん、気を失っていたんだわ・・・」クラリスが言った。
「恐らく、そうだったんでしょうね。でも、あのとき、わたしは必死だった。あのひとを助けなければ。あのひとを死なせてはいけない。あのひとがわたしのすべてだ。あのひとを愛している・・・そう思ったのです」エマニュエルの声はまだ震えていた。「わたしは、自分がしたことをよく覚えていません。たぶん、近くの馬に乗ってあの白毛を追跡し、乗り移ってあなたを抱いたまま草の上に落ちた・・・のでしょうね。そんなことが自分にできたことさえ信じられません」
「・・・ごめんなさい、とても痛かったでしょうね・・・」
「不思議なことに、全然痛みを感じなかったのです。むしろ---こんなことを言うなんておかしいと思われるでしょうけど---わたしは嬉しかったんです。あなたが無事だったから、それだけで幸せでした」
 クラリスは、どう答えていいものか考え込んだ。
「・・・率直に言えば、わたしも、フィル君の推理が正しいように思えます。あなたは、きっとザレスキー一族に間違いありません」彼が続けた。「あなたとロビー=カレヴィが別れるのを望んでいるからそう言っているわけじゃありません。客観的に見て、その推理が正しいと思うのです」
 彼はクラリスの目を見つめた。「もし、わたしがロビーだったら、何よりもまずあなたの幸せを望みます。あなたを幸せにしたいなら、あなたをあらそいに巻き込むはずはありません。もし、あなたが本当にザレスキー一族だったら、あなたは絶対にロビーと結婚することはできません。フランショーム家の当主である彼の母親が反対することでしょう。それをがむしゃらに乗り越えようとするなら、傷つくのは、彼よりむしろあなたのほうじゃないかしら、クラリス?」
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