FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第37章

第674回

「これから、その絵を描いてもらいます。いいですか?」ロジェ氏が言った。
 シャルロットはうなずいた。
 ロジェ氏は、今まで宿舎になっていた屋敷にシャルロットと一緒に行った。
 案内された部屋には、年老いた画家がいた。机の上の冠には、すでにルビーが5個入ったものが用意されていて、ピサン氏がそれを守るように控えていた。
 ピサン氏は、シャルロットが部屋に入るなりうれしそうに歩み寄り、握手を求めた。
「おじょうさん、約束を守ってくれたんですね。こんなにはやく再会できてうれしいです」
「覚えていて下さったのですか?」シャルロットもほほえんだ。
「こちらは、グルノーブルに住んでいる画家のパスカル氏です。彼は、第一回受賞者からずっと描き続けているんですよ」ピサン氏は画家を紹介した。
 シャルロットとパスカル氏は握手した。
「あなたは、ザレスキー一族なんですね?」画家が訊ねた。
「ええ、そうです」シャルロットが答えた。
 彼はうれしそうに言った。「実は、ザレスキー一族を描くのは初めてなんです。一度描いてみたかったんですけどね」
 シャルロットはピサン氏に冠をかぶせてもらいながら画家の方を見ていた。「ザレスキー一族の受賞者は、たぶん、初めてですよね?」
「そうですが・・・」彼は、かの女が準備を終えるのを待ちきれない様子で言った。「そういう意味ではなく、わたしは、単に、ザレスキー一族の女性を描いてみたかったんですよ」
 シャルロットは不思議そうに彼を見つめた。
「理由は二つあります。一つは、噂の<ザレスキー家の目>というのを描いてみたかったこと。そして・・・」
 シャルロットは首をかしげようとしたが、冠が重いのでやめた。「・・・そして・・・?」
 彼は急に寂しそうなほほえみを浮かべた。「・・・昔、わたしは、ザレスキー一族の女性に一目惚れをしてしまいましてね・・・」
「かの女に振られたんですか・・・?」シャルロットは思わずそう口にして、すまなそうな表情を浮かべた。「・・・すみません、変なことを言ってしまいました。本当にごめんなさい・・・」
 彼はほほえんだ。「いいえ、あれは、わたしの片思いでした。わたしがかの女にあったとき、かの女はすでに結婚していました・・・。とても若い花嫁だった・・・。わたしは、いつか、かの女を描きたいと思いました。でも、かの女は、わたしたちの前から姿を消しました・・・」
 そう言うと、画家は不安そうにしていたシャルロットに言った。
「わたしのつまらない思い出話なんて、退屈でしょう?」
 シャルロットはほんの少しほほえんだ。「・・・どうか、詳しく話して下さい、二つ目の理由を・・・もしさしつかえなければ・・・」
「よかったら、聞いてください。つまらない思い出話ですが・・・」
 画家は、キャンバスに向かって手を動かしながら話した。
「あれは、1874年のことでした。わたしは、友人に誘われて、ある公爵夫人のサロンに出かけました。公爵夫人といっても、かの女は当時17か18だったはずだ。結婚したばかりくらいでね。集まっていたのは、音楽家と画家が半数くらいだったかな・・・。わたしは、公爵夫人のあの美しい目にひかれた。それで、ほとんど毎週くらい集まりに顔を出した。画家たちは、誰もがかの女をモデルに絵を描きたがった。でも、かの女は誰のモデルにもならなかった・・・」彼はふと手を止め、目を閉じた。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ