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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第37章

第675回

「そんなとき、サロンの中でちょっとした事件が起こったんです」画家は再び手を動かしながら言った。「フランショーム家出身のあるヴァイオリニストが、かの女に愛していると告白してしまったんです。そこへ、公爵が現われて・・・。その日以来、サロンは閉鎖され、公爵夫妻はその地を去っていきました。わたしがかの女を見たのは、それが最後でした・・・」
 画家は苦しそうに目を閉じた。その手が再び止まった。「わたしは、思い出の中のかの女を何枚も描きました。そして、思ったのです。いつか、本物のザレスキー一族をモデルにした絵を描きたい。いつか、必ず描いてやる、ってね。この仕事を始めたのは、そんなわけだったんです。ザレスキー一族には音楽家が多いでしょう? だから、毎年こうやって絵を描いているうちに、いつかはザレスキー一族の肖像画が描けると思っていたんですよ」
「そして、35年・・・ですか・・・?」シャルロットはちいさくため息をついた。
 画家は目を開けた。「そうです。35年です」
 そう言うと、彼はほほえんだ。
「ねえ、笑ってくれない? 恐くなんかないんだよ」
 シャルロットは無理にほほえみを浮かべた。
「あなたは、ほんとうに、かの女そっくりなんですね!」彼はうれしそうに言った。「絵を描いてもらうのは初めて?」
「ええ」シャルロットが答えた。
「あなたもザレスキー一族なら、ルイーズ=ザレスカという女性のこと、ご存じでしょう、聖母マリア像のモデルになったという・・・?」
「ルイーズ=ザレスカ? ・・・ああ、ルドヴィーカ=ザレスカのことですね。直接お会いしたことはありません。わたしが生まれる前に死んでしまったそうです。でも、かの女の息子のヴィトールドは知っています。同じ学校にいます」
 画家はうれしそうに笑った。「彼って、ハンサムなんだろうね?」
「そうね・・・そうかもしれないわね」シャルロットは考え込んだ。かの女は、ヴィトールドをそういう風に考えて見たことは一度もなかった。
「わたしは、その聖母マリア像を見たことがある。ケーニヒスベルクでね。あなたは、それにそっくりなんですね」
「あなたは、ケーニヒスベルクに行ったことがあるんですか?」シャルロットの顔がぱっと輝いた。
「その像を見にね・・・。あの女性に似ているかなと思ってね・・・」反対に彼は悲しそうだった。「でも、少し違っていた。だけど、あの少女より、あなたのほうがかの女に似ているのはなぜだろうね?」
 シャルロットは不思議そうに首をかしげた。
 彼は、急にうれしそうにほほえんだ。「・・・わかった、そのしぐさだ! あなたは、首をかしげる癖があるね。ステラさんもそうだった!」
「ステラさん?」シャルロットは驚いた。
 彼はうなずいた。「ステラ=ド=ルージュヴィル公爵夫人です。わたしのあこがれの人物です」
 シャルロットはあぜんとした。この人は、祖母の話をしているんだ!
 ザレスキー一族には、ステラという名前の女性はほかにいない。しかも、ド=ルージュヴィル公爵夫人を名乗るステラという女性は、祖母だけだ。彼は、間違いなく祖母の話をしている・・・。
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