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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第37章

第677回

 そのとき、彼らの後ろで咳払いの音がした。
「・・・きみたち、そんなこと、子どもの目の前で話すような話じゃないだろう?」
 振り返ると、ロジェ氏がそこに立っていた。
 大人たち二人は、ばつが悪そうな顔をした。
「あら、わたし、子どもじゃないわ!」シャルロットは、ふてくされたような顔をした。
 三人の大人たちは笑い出した。シャルロットも最後には怒っているふりが続けられなくなり、笑い出した。
 画家は、本当にうれしそうな顔をしてシャルロットを見た。
「・・・ステラさんは、本当に魅力的なひとでした。特に、笑ったとき、とても美しかったのを覚えています。ザレスキー家のひとって、みんなすてきな笑顔の持ち主なんですね」画家はほほえんだ。「あなたは、ステラさんにそっくりなんですね。ね、笑ってくれませんか? わたしは、ステラさんのあのほほえみが見たい・・・あのほほえみを描いてみたい・・・あのほほえみを残したい・・・」
 シャルロットは彼を見つめた。「あなたは・・・かの女が好きなんですね、今でも・・・?」
 画家は真っ赤になってほほえみ続けた。
 シャルロットは、彼のためにほほえんだ。
 画家は、懐かしそうにかの女を見つめた。「ああ、なんて・・・」
 彼の口からため息が漏れた。そして、目が涙で潤んできた。
 シャルロットは、急に思い出した。そういえば、アファナーシイ=ザレスキー氏も、かの女が祖母のステラにそっくりだと言っていたっけ・・・。あのときの、彼のまなざしも、本当に懐かしそうだった・・・。ステラ=ド=ルージュヴィルは不幸な女性だと彼らは言った。しかし、シャルロットにはそうは思えなかった。かの女が亡くなって30年以上も経った現在でも、こうやってかの女を思い出してくれる人がいる・・・。かの女の人生は不幸だったかもしれない。だが、かの女は幸福な人だったのではないだろうか?
「・・・ありがとう、おじょうさん、ありがとう・・・」画家は、まるで恋人を見るような優しい目でかの女を見ながらスケッチを始めた。
 シャルロットは、彼のためにほほえみ続けた。
「ぼくのちいさなお星さま(プティット=ステラ)・・・スケッチができました」彼はかの女に声をかけた。「完成までには、もう少しかかります。そのうち、絵を見に来て下さいね」
「ええ。必ず」シャルロットが言った。
 そして、シャルロットとパスカル氏は固く握手した。
 シャルロットは、冠をピサン氏に返し、部屋から出て行った。
 シャルロットが向かったのは、ルブラン夫人の家だった。夕方近い時間で、家には夫人しかいなかった。かの女は、シャルロットを見るなりうれしさのあまり抱きついた。
「おめでとう、シャル! あなたが一位になるのを確信していたわ」
「でも、わたしは、間違えたのに・・・」
「それでも、あなたが一番なの」ルブラン夫人は、自分の娘にするようにシャルロットをもう一度抱きしめた。
「ありがとう、マダム=ルブラン」
 ルブラン夫人は、シャルロットを離すと、にやりとしてこう訊ねた。「・・・ところで、あのときのあの人、本当に<皇帝>コンチェルトを演奏するつもりなのかしら?」
「本人は、とても困っていましたわ」シャルロットもにやりとした。「ただ、オーケストラのメンバーは、すっかりやる気になっているみたい」
「本当に?」
 シャルロットはうなずいた。「なんせ、ホール支配人の生演奏が聴けるんですもの」
 ルブラン夫人は、もう一度にやりとした。
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