FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第37章

第679回

 そのとき、会場にいたピサン氏が立ちあがってこう言った。「そうだな、わたしは納得できないね。コンチェルトはオーケストラと一緒に演奏するものだ。今のじゃ、ちょっとね・・・」
 会場内で拍手が起こった。
 ロジェ氏は本当に困ったような顔をした。
「・・・わかりました、わたしがかわりに第一楽章を演奏しましょう」シャルロットが言った。「どうでしょうか?」
 会場でもう一度拍手が起こった。
「・・・よろしいですか、マエストロ?」
「異存なし」ブーランジェ氏は答えた。「そのかわり、<クラコヴィアク>も演奏してもらうよ」
 こうして、受賞記念コンサートはなごやかな雰囲気で始まった。
 コンサート終了後、シャルロットは、控え室に戻ろうとしていたブーランジェ氏に後ろから声をかけた。
ロマノフスキーさん(パン=ロマノフスキー)・・・?」
 ブーランジェ氏は反射的に振り返った。彼は真っ青になっていた。しばらくかの女を見つめたあと、フランス語で言った。「・・・わたしは、もうロマノフスキーじゃない」
「ポーランド語を忘れてしまったんですか?」シャルロットはポーランド語で訊ねた。
「わすれてしまった」彼はフランス語で答えた。
「アントーニナ=オルシャンスカのことも?」
 彼はさらに青くなった。そして、フランス語で口ごもるように言った。「・・・もう、過去の話だ」
 シャルロットはさらにポーランド語で続けた。「フェリックスが死にかけていることも、あなたにとっては過去ですか?」
「・・・フェリックス・・・」彼はついにポーランド語を口にした。「・・・彼らは、ワルシャワにいるはずだ」
 シャルロットは首を横に振った。「あなたは、オルシャンスカ嬢(パンナ=オルシャンスカ)が亡くなられたことをご存じないのですか? そして、フェリックスがフランスに来ていることも?」
 彼の体が大きくよろめいた。「・・・トーニャが、死んだ・・・?」
 シャルロットはうなずいた。
 彼は、壁によりかかった。かろうじて倒れずにすんだようだ。「まさか・・・」
 シャルロットは首を横に振った。
「・・・フェリックスを、一人残して・・・?」
 シャルロットがうなずいた。「そうです。フェリックスを残してです」
 彼は、死人のような顔色になっていた。「・・・それで・・・?」
「わたしの母は、パンナ=オルシャンスカの友人でした。それで、彼を引き取って、わたしと一緒に育てたのです。ですが、彼は、ポーランドを出る決心をしました。彼は、あなたに会うために、フランスに来たんです。そして、病気で倒れてしまいました」シャルロットが言った。
 彼は両手で顔を覆った。
「・・・彼が死ぬ前に、会ってあげて下さいませんか?」
 ブーランジェ氏は、顔から手を下ろし、かの女の方を見た。彼は、確かに子どもたちと同じグリーンの目をしていた。彼は目を伏せ、ゆっくりとうなずいた。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ