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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第38章

第681回

 通称<サント=ヴェロニック=ホール>と呼ばれている第二講堂は、2年生全体の劇<秋のファンタジー>の練習が始まって以来、2年生たちに占領されていた。彼らは、そこを自分たち専用の練習場にしてしまった。ステージは、すぐに劇ができる状態になっていたし、そのまわりは、大道具、小道具置き場のようになっていた。
 ステージの上は、最後の場面、つまり、たくさんの椅子が並べられ、そのうちの一つに花嫁の白いヴェールが置いてある椅子があるという場面のセットになっていた。そして、そこにドニ=フェリーがたった一人で座って、なにやら考え事をしていた。彼は、ヴェールを持ってぼんやりしていた。
 シャルロットが見たとき、彼はそうして考え事をしている最中だった。
「・・・モン=シェリィ・・・?」シャルロットは、劇の中のせりふで彼に声をかけた。
「アニー?」ドニは反射的に口走った。シャルロットを見た彼は、驚き、とまどい、喜びという表情を顔に浮かべたあと、最後ににやりとした。「・・・アニー=ド=リリーズは、この場面に現われちゃいけないんだよ、知らなかったの?」
 シャルロットは恥ずかしそうに笑った。「いいえ、知っているわ。でも、あなたがそうやっていたら、わたし、いつまでも話ができないわ」
 ドニは真っ赤になった。
 そのとおりだった。これは、劇のラストシーンの舞台装置だった。ドニは---アラン=ドルスタンスは、たった一人でステージに残り、ヴェールを抱きしめたまま泣き崩れるところで劇が終わるのである。なぜなら、花嫁になるはずだったアニー=ド=リリーズは、置き手紙と白いヴェールだけを椅子に残し、永遠に彼の元を去っていったからである。だから、アニーだけは、間違ってもこの場面に顔を出してはいけないのだ。
 ドニは、ステージに現われたシャルロットのところまで進み出ると、持っていたヴェールをかの女の頭にのせた。
「・・・とってもきれいだよ、アニー」彼は劇のせりふをしゃべった。その声は、わずかにかすれていた。
 ドニは、ヴェールをつけたシャルロットを懐かしそうに見つめた。しかし、彼が見ていたのは、シャルロットではなかった。彼は、思い出の中にいたのである。
 昔、彼は、こうやって結婚式ごっこをして遊んだことがあった。そのとき、彼の花嫁になったのは、ちいさなシュリーだった。花嫁のヴェールにするため白いレースのカーテンをはずし、花嫁の頭にかけた。こうしてできあがった彼のちいさな花嫁は、庭の白いバラを手に持って、すまして彼の隣に並んだ。
 そんなかの女に、彼は小さな声で訊ねた。
『いつか、本当にぼくと結婚してくれる、シュリー?』
『いいえ、たぶん、むりだわ』
『どうして?』
『だって、わたしは、あなたを愛していないんですもの』
 こんな会話をしながら、二人は祭壇に見立てたテーブルまで音楽に合わせながら歩いた。
 二人は並んで<コルネリウス神父>の前に進み出た。
 コルネリウスは、ドニにシュリーとの結婚の意志を訊ねた。そのあとで、彼はシュリーにも同じことを訊ねた。
『ユーフラジー=シャルロット=ステファニー=ド=ラ=ブリュショルリー、汝は、ドニ=セバスティアン=フェリーを花婿とすることを望むか?』
 ちいさなシュリーは、その言葉を聞いたとたん・・・。
 彼は、思わずつぶやいた。「・・・ねえ、シュリー、きみは今でもぼくが嫌いなの?」
 シャルロットはヴェールを持ち上げた。かの女は真っ青になっていた。「・・・どうしたの、ドニ?」
 彼は、はっとわれにかえった。「・・・ごめんね、シャルロット。ぼく、つい、思い出してしまったんだ・・・」
 そして、彼はそっとため息をついた。
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