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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第38章

第682回

 シャルロットは、ドニが何を思い出したのかわかっていた。昔、彼とこうやって結婚式ごっこをしたのは、かの女も覚えていた。しかし、そんなに昔のことを彼が覚えているとは思わなかった。
「・・・わたし、そんなにユーフラジーに似ているの?」シャルロットが彼に訊ねた。
 ドニは黙ってうなずいた。
「あなた、かの女が本当に好きだったのね?」
「好きだった」彼は素直に認めた。「そして、かの女そっくりだという理由から、ぼくはきみに興味を持った。それだけではなく、ぼくは・・・」
 彼は一瞬言いよどんだ。そして、真剣なまなざしでシャルロットを見つめた。「・・・ぼくがきみを好きになっても、きみは、ぼくのほうなんて見てはくれないんだろうね。ちょうど、シュリーがぼくには見向きもしなかったように・・・」
 シャルロットは、とまどったように答えた。「あのね、ドニ、わたし、あなたよりも6つも年下なのよ。あなたにとって、わたしなんて子どもに過ぎないわ。からかわないでちょうだい」
「きみが子どもだって! ぼくが好きだったシュリーは、あのとき、まだ5歳だったんだ」ドニが言った。
「かの女は別よ。だって、あなたの幼なじみだったんでしょう? でも、わたしは、ただの10歳の女の子だわ」
 彼は怒り出した。「わかった。きみは、ぼくを軽蔑しているんだね。ぼくはただの市民階級の育ちだからね。きみが公爵令嬢で、ぼくはただの孤児に過ぎない。だから、ぼくなんてどうだっていいんだ、そういうことだね?」
 シャルロットは傷ついたように彼を見つめた。「わたし・・・あなたも知っていると思ったんだけど・・・公爵の娘なんかじゃない。ル=アーヴルの海岸で拾われた捨て子で、どこの誰かもわからない子どもなのよ。そんなわたしを、彼は自分の娘として育ててくれたの」
「アニー=ド=リリーズのせりふなんてまっぴらだ!」
「あら、アニーのせりふそのままじゃないわ」シャルロットは力なく笑った。「でも、わたしが言ったことは本当よ。アニーは、半分はわたし自身なの。ひょっとすると、わたしは、アニーみたいに殺人犯の娘かもしれないわ」
「冗談にしないで!」彼は怒っていた。
「でも、本当のことなのよ」シャルロットはちいさくため息をついた。「2年7組の人たちに確認してみるといいわ。アンシクロペディーなんかが本当のことを話してくれると思うわ」
「じゃ、本当なんだね・・・」彼はうなだれた。「許してくれ、知らなかったんだ」
 シャルロットは無言のままだった。
「・・・じゃ、どうしてぼくを嫌うの?」
「わたし、あなたが嫌いなんじゃないわ。ただ、ほかに好きな人がいるだけなのよ」
「彼の方が、ぼくよりも魅力的だ、というわけか」ドニが言った。「ねえ、教えてくれない、彼にあってぼくにないものって、何?」
 シャルロットはちょっと考えた。「わからないわ。そんなもの、あるのかしら?」
 彼は黙ってシャルロットを見つめていた。
「だけど、あなたにあって彼にないものならわかるわ。あなたは、彼よりずっとハンサムだし、彼よりずっと話がうまいし、彼よりずっと賢いし、彼よりも行動力も決断力もあるわ」シャルロットが言った。「・・・でもね、彼は、あなたよりわたしのことをよく知っているわ。彼は、ありのままのわたしを知っている。わたしも、ありのままの彼を知っているつもりよ。だから、わたしは、彼が信じられるし、彼を理解できると思っているわ。そして、彼を尊敬しているわ。・・・でも、そんな関係が、わたしとあなたの間に育つとは思えないの・・・うまく説明できないんだけど・・・」
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