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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第38章

第684回

「・・・じゃ、せめて、お礼だけは言わせて」シャルロットが言った。「シューザンのことでは、あなたに助けてもらってありがたいと思っているわ。ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーは、あなたのようなクラスメートがいて、パトリックはとても幸せだ、と言っていたわ。わたしもそう思うわ」
 フランソワは無言だった。
「あなたは、誰にでも優しいのに、わたしにだけは違うのね」シャルロットが言った。
「どうして、そんなことを言うの?」フランソワは気を悪くしたように言った。
「だって、本当のことですもの」
 フランソワは一歩前に進み出た。「きみだって、ぼくにだけは笑いかけてくれなかった」
「だって、あなたが恐かったんですもの・・・」
「ぼくが、きみも殴るかもしれない・・・そう思った?」
「いいえ。あなたは、そういう人じゃない」シャルロットはしゃくり上げた。「・・・でも、あなたは、冷たい目つきでわたしを見ていたわ。気がついていなかったの?」
「・・・ずっと・・・?」
「ええ、ずっとよ」シャルロットが答えた。
「本当に?」
 シャルロットはうなずいた。
「ぼくは、てっきり、きみがぼくを避けているのかと思っていた。でも、本当は逆にぼくがきみを恐がらせていたんだね」フランソワが言った。「知らなかった。でも、知っていたとしても、どうすることもできなかった。ぼくは、きみに腹を立てていたのは確かだったしね」
 そう言うと、彼はかの女に手を差しだした。「また、ぼくのためにほほえんでほしい、プティタンジュ。この二ヶ月間、まるで太陽が消えてしまったかのようだった・・・。きみの心からの・・・友情を・・・ぼくにくれないだろうか?」
 シャルロットはその手を取った。かの女は彼が《友情》という単語をためらいがちに口にした理由はわからなかったが、彼と仲直りできるのがうれしかったのである。「ええ、心からの信頼と友情を、あなたに捧げます」
 フランソワは、晴れ晴れとした表情でステージを見つめた。「そろそろ出番らしい。行ってくるとしようか、かわいいアニー」
「ええ、ムッシュー=グラボフスキー」シャルロットもほほえんだ。
 彼はハンカチをポケットから出すと、そっとシャルロットの目から涙をぬぐった。そして、そのハンカチをかの女の手に渡すと、ステージの方に向かって歩いて行った。
 ドニ=フェリーはその様子を少し離れたところから見ていた。彼の心の中には嵐が吹き荒れていた。
 シャルロットは気づいていないようだが、彼にはフランソワが何を言いたかったのかわかったのである。フランソワとコルネリウスが喧嘩したらしいということは、彼も知っていた。その理由も聞いていた。しかし、今、フランソワは、コルネリウスを殴った本当の理由をほのめかした。
 シャルロットは、コルネリウスを愛している。
『あなたにあって、彼(コルネリウス)にないものならわかるわ。・・・でも、彼はあなたよりわたしのことをよく知っている・・・だから、わたしは彼が信じられるし、彼を理解できると思っているわ。そして、彼を尊敬しているわ。でも、それが、わたしとあなたの間に育つとは思えないの』
 子どもの頃、ドニとコルネリウスとシャルロットはよく3人で遊んだ。そのころから、ドニはかの女が好きだったが、シャルロットはコルネリウスを愛していた。誰もがドニをかわいくて賢い子どもだとほめ、屋敷中の女の子たちの視線を釘付けにしていたが、ただ一人シャルロットだけは違った。やがて、ドニも、コルネリウスとシャルロットが、親同士が決めた《婚約者》で、自分は単なる運転手の息子に過ぎないことを知るが、それでも彼はかの女に夢中だった。
 そんな日々が、あの事故で突然過去のものとなった。
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