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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第38章

第687回

 コルネリウスは、《今、太陽が西から昇ってきた》と聞かされた人のような顔をしてドニを見つめた。
「・・・まさか、きみが?」コルネリウスはそう言ったが、信じていないような表情だった。
 ドニがうなずいた。「ぼくは、これまでどんな女の子にも愛をささやいたことはない。シュリー以上の女の子が現われなかったからだ。でも、かの女は違う・・・」
 そのとき、監督が大きな声を上げた。「ドニ! 出番だよ!」
「・・・監督、ごめん」ドニは、あわててステージの方へ走っていった。
 その場に残されたコルネリウスは、自分の心の中を整理する必要に迫られていた。フランソワとドニが、シャルロットを愛している。そして、この自分も・・・。
 彼は見るともなしにステージに目をやった。そのとき、ステージの上では、フランソワがシャルロットの手を取り、ドニのほうに歩いていた。
「・・・さあ、手を取りなさい。アニーを頼んだよ」フランソワがドニに優しく話しかけた。「きみなら、かの女を幸せにしてくれるだろう」
 コルネリウスは思わず拳を握りしめた。
「わたしは、この子を父親のように見つめてきた」フランソワが言った。「この子を幸せにすると、きみに誓って欲しい。父親代わりとして、わたしは、きみに要求する」
 コルネリウスは、フランソワの表情を見た。
 彼は、《父親代わりとして》と言うせりふを、何て苦しそうに言うんだろう? アンドレ=グラボフスキーは、アニーを愛している。その気持ちをアニーたちの前では巧みに隠し、父親代わりに徹しているふりをしている。しかし、そうではないことを観客には示さなければならない。フランソワは、自分の役に没頭している。あれでは、まるで、本当に恋に狂った男性そのものだ。いや、本当の自分の気持ちを表しているのか?
「かの女を愛しています。きっと、ぼくの手で、幸せにしてみせます」左手を服の中に隠したドニがステージの上で右手を振り回した。が、《ぼくの手》は複数形だった。「ぼくたちには、手が3本と、足が3本しかありません。でも、手と足が完全にそろっていることは、幸せになるための条件ではないと思います」
 そのドニの真剣な声を聞き、コルネリウスは、かつての結婚ごっこを思い出していた。ユーフラジーを妻にしたいと言った彼の声は、今と同じくらい真剣なものだった・・・。
 気がついたとき、コルネリウスの隣にフランソワが立っていた。フランソワは、彼が自分の方を見たのに気づくと、つぶやくように言った。
「・・・ステージに夢中だとばかり思っていたよ・・・」
 コルネリウスがびっくりしたように彼を見たので、彼が言った。
「・・・この劇は、本当に面白いと思うよ。ステージの上でだけは、かの女を愛していると人前で堂々と宣言できるんだからね」
 コルネリウスは思わず顔をしかめた。
「そして、たとえ、そうしたとしても、誰にも文句は言われない」フランソワはため息をついた。「・・・かの女自身にさえも、ね」
《ぼくは、気にするぞ》コルネリウスは目で威嚇した。
 フランソワはふっと目をそらした。「かの女は、誰のものでもない」
 そして、フランソワは彼から離れた。
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