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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第38章

第689回

 しかし、ショックを受けてしゃがみ込んでいたシャルロットは立ちあがることができなかった。それに気づいたサルヴァドールは、かの女の足元にかがみ込み、「大丈夫?」と訊ねた。
「・・・ごめんなさい、立てないわ・・・」シャルロットがささやき返した。
 かの女が真っ青になっているのを見て、サルヴァドールはかの女を抱き上げた。
「監督、ちょっと時間をくれない? 少し休ませたいんだけど?」彼は、ステージの下手に向かって歩きながら叫んだ。
「・・・じゃ、5分間の休憩!」監督が叫んだ。
 ステージの袖のところにあった椅子にシャルロットを座らせると、サルヴァドールが言った。「・・・どう、落ち着いた?」
 シャルロットは小さくうなずいた。
 コルネリウスは、心配そうに二人に近づいた。
「・・・ごめん、プティタンジュ」コルネリウスが謝った。
「どうして謝るの? マクシムは、アニーを愛しているのよ」シャルロットがかすれた声で答えた。「悪いのは、アニーになりきれなかったわたしの方よ・・・」
「そうだね、かの女の言うとおりだ」監督が顔を出した。そして、彼はシャルロットにコップに入った水を差しだした。「飲むといい。落ち着くよ」
 レオポルディーヌも顔を出した。「どう、プティタンジュ? やはり、もとの演出の方がいい?」
「ええ、そうしてほしいと言いたいところだけど・・・」シャルロットは青ざめた顔に少しほほえみを浮かべた。「脚本家としては、さっきの演出に魅力を感じるわ。ただ、演じるキャストとしては、あれは、つらい演出だわ」
「あなたは、その両方だから、つらいでしょうね」レオポルディーヌはシャルロットの手からコップを受け取った。
 シャルロットは苦しそうに額にしわを寄せた。「・・・原作では、この時点でマクシムはアニーを愛しているわ。アニーの方はそうじゃないけど・・・。こうしたほうが、マクシムらしいと思うわ。でも・・・」
 シャルロットは考え込むような表情を見せた。「わたし、あなたに一任するわ、レオポルディーヌ。ただ、婚約者のアランは、アニーに一度もキスしないわ・・・ステージの上ではね。それでも、マクシムにキスを許すのはどうかしら?」
「わたし、知っているわ。この劇の本当の主人公がアニーとマクシムだということをね」レオポルディーヌが言った。「そして、彼らが結婚しようとするのをアランが阻止するんだったわね」
 シャルロットがうなずいた。「そうよ」
 レオポルディーヌは、フェルディナンドの方を見た。フェルディナンドはうなずいた。
「この場は、この演出で行こう」フェルディナンドが言った。そして、彼は、コルネリウスに向かって片目を閉じた。「・・・ただし、本番では5分の休憩はできないぞ」
 コルネリウスは真っ赤になった。
「・・・本気になるなよ、ステージの上では」監督は、コルネリウスの耳元でささやき、ステージに向かって歩き出した。
「さあ、さっきの場面から、練習を開始する!」監督は、大きな声で叫び、ステージから飛び降りた。
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