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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第38章

第691回

 コルネリウスは、自分の失言に対して、いいわけはしなかった。彼は、重い気持ちを抱いたままその場から去っていった。
 シャルロットが顔を上げたとき、コルネリウスは去ったあとだった。かの女は、彼の発言の意味を聞くのが恐かった。かの女は彼を愛していたが、彼が好きなのは現実のかの女ではなく、思い出の中のかの女なのだということを、彼の口から聞きたくはなかった。だから、彼が去っていってくれてほっとしていたのである。
 かの女は、重い足取りで控え室に向かった。そこで着替えを済ませ、衣装や小道具のつまったバッグを大道具置き場になっていた別の控え室に置くと、出口に向かって急いだ。
 ドアを開けると、雨が降っているのがわかった。傘は持ってきていなかった。そして、傘なしではかなりぬれそうだった。シャルロットは、雨が止むまで様子を見ようとし、ドアを閉めた。そこへドニ=フェリーが現われた。
「一緒に帰らない、シャルロット?」ドニが言った。
「雨が降っているわ」シャルロットが答えた。「わたし、傘を持っていないの。あなたは?」
「ぼくも持っていない。でも、すぐやむと思う。さあ、行こう!」
 シャルロットはためらった。しかし、ドニはかの女の手を引いてホールを飛び出した。彼らはかなり早足で歩いたが、雨はやみそうもなかった。彼らの全身は、激しくなる雨のためにびしょぬれになっていた。特に、長いスカートをはいていたシャルロットは、スカートが足に絡まって、何度も転びそうになっていた。しかし、彼はそれに気づかず、かの女を無理に引っ張るように歩き続けた。彼らは、ほぼ30分歩き続け、学校までたどり着いた。
 雨がやんだのは、それから約20分後だった。


 その翌日、始業時間前に、ドニ=フェリーは2年7組の教室に行った。シャルロットに謝るためである。彼は、無理にかの女を学校に連れ帰った。彼は、どうしてもそれを謝りたかったのである。
 しかし、彼が教室についたとき、いつも朝早く教室にいるはずのシャルロットの姿はなかった。
「・・・シャルロットは・・・?」ドニがフランソワに訊ねた。
「いや、まだ来ていないが?」フランソワは首をかしげた。いつも早くから教室にいるウラジーミル=ミチューリンも首をひねっていた。「・・・でも、すぐ来ると思う。かの女は、いつも早いから」
 そのとき、アーデルハイト=バウムガルトナーが教室に現われた。ほかの女生徒がシャルロットよりも早く来るのは珍しいことだった。3人は驚いたようにアーデルハイトを見つめた。
「おはよう、アンシャン、ディスポ。おはよう、ムッシュー=フェリー」アーデルハイトは挨拶してから、3人の驚いたようなまなざしに気づいた。「・・・どうかしたの?」
「シャルロットは?」ドニが訊ねた。
 それで、アーデルハイトも彼らが驚いている理由がわかった。「プティタンジュ?・・・あら、まだなの? 珍しいわね」
 3人はうなずいた。
「・・・そういえば、今日は、朝からかの女を見ていないわ。パーテル=ノステル(朝5時半からのミサの愛称)のときも、お掃除のときも、朝食のときも見かけなかったわね・・・」アーデルハイトも首をひねった。「あの子、聖歌隊の最前列にいるから、目立つんだけど・・・」
「どうしたんだろう? 病気かな?」フランソワは、自分の不安を口にした。
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