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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第38章

第692回

「病気?」ドニが訊ねた。
「風邪でもひいたんじゃないの」フランソワが言った。彼は、ドニをにらみつけた。「・・・きみは、あの土砂降りの中、かの女を連れて帰ったんだってね。あそこからだと、優に30分はかかっただろうね。まさかこんなことになるんだったら引き留めるべきだったと、モマン=ミュジコーが落ち込んでいたよ。そりゃ、きみは男だし、丈夫なようだけど、かの女はまだ10歳の女の子なんだよ。そこを考えてみた?」
 ドニはうなだれた。「・・・考えなかった・・・」
 彼は、がっくりと肩を落とし、ゆっくりと教室から出て行こうとした。
「ムッシュー=フェリー」アーデルハイトが声をかけた。「シャルロットは、きっと、あなたのことを心配していると思うわ。自分が風邪をひいて苦しんでいたとしても、あなたのことを考えるようなひとだから、かの女は・・・。だから、あなたが大丈夫だって伝えるわ。きっと、安心すると思うの」
 ドニは振り返った。「いいや、ぼくにはそうは思えない。かの女は、きっと、ぼくを恨んでいるはずだ。かの女をあんな目に遭わせたのは、ぼくだ。今みたいなときに病気になることがどんなにつらいか、よくわかっているよ。もし、かの女が、コンクールで一位を取れなかったら、ぼくの責任だ」
 そして、彼は出て行った。
「・・・あんな彼の様子、初めて見たわ」アーデルハイトが言った。
 二人の少年もうなずいた。
 その日、シャルロットは風邪で欠席した。
 それからも、ドニ=フェリーは、毎朝2年7組に現われた。
 そして、いつも同じ返事をもらって帰っていった・・・。
 シャルロットが休んでから3日目の昼頃、ドニは、中庭でドクトゥール=マルローに会った。マルローは難しい顔をして歩いていたが、ドニを見かけると表情が和らいだ。
「・・・やあ、元気そうだね、ドニ」
「ありがとうございます。あなたは、ドクトゥール=マルロー?」
「ごらんの通りさ」マルローが答えた。
「こんなところでお会いするなんて、珍しいですね」
 彼の顔がくもった。「今日は、シャルロットお嬢さま---わたしたちの被保護者であるチャルトルィスカ公爵令嬢の具合がよくないと言うことで、特別に呼ばれてね・・・。どうやら、肺炎にかかられたようだ」
「肺炎?」ドニの顔もくもった。
「お嬢さまは、体が丈夫ではないんだろうね。何でも、あの土砂降りの日に、外を歩いたらしいんだ。目撃者の話では、男子生徒の誰かに歩かされたのだとか・・・」
「歩かされた?」
「ああ。まったくひどい話だよね。誰が連れ出したの、ってきいても、絶対に答えようとしない。かの女は、頑固者だ」マルローは苦笑した。「自分があんな風になっても、誰かをかばおうとしている。コルネリウスがついていながら、こんなことになってしまうとはね」
「ドンニィが、それとどういう関係があるんですか?」
「彼は、直前までかの女と一緒だったそうじゃないか」マルローはちょっと怒ったような表情になった。「だから、彼に面会を求めた。そして、どうしてかの女から目を離したんだ、って怒ってきたところだ」
 ドクトゥール=マルローが行ってしまった後、ドニはいても立ってもいられないような気分になった。とはいっても、かの女に会うことはできない。彼は、女子寮の外の大きな木の所に行った。その木は、かの女の部屋のすぐそばにあった。彼は、その木を見上げた。そして、彼はかの女が元気になるように祈った。今の彼には、そうすることしかできなかった。
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