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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第38章

第693回

 サント=セシール小聖堂では、リシャール=マティスがオルガンの練習をしていた。彼が弾いていたのは、自作の<交響詩ヴァレンシュタイン>だった。それは、学年末テストの提出曲として、彼がずっと準備していた曲だった。オーケストレーションを考えるため、オルガンで演奏していたのである。
 サント=セシール小聖堂は、女子寮の近くにある聖堂で、ふだんは女子寮の生徒たちが平日のミサ(午前5時半からの<パーテル=ノステル>、午後6時からの<マニフィカット>)に集まることくらいにしか利用されていなかった。そこにちいさなパイプオルガンがあるので、作曲コースの生徒とオルガンコースの生徒たちは、男子女子にかかわらず、日中出入りしていた。ただ、女子寮の近くにあり、女子生徒が行く聖堂、というイメージのため、男子生徒はたいてい二人以上で出入りすることが多かった。この日、リシャール=マティスは、ヴィルフレード=フェリシアーニをつれてきていた。
「オルガン=シンフォニーですか、ムッシュー=マティス?」
「いいや、交響詩だよ」リシャールは真面目な顔で答えた。「学年末に提出する2曲のうちの一つで、<ヴァレンシュタイン>っていうんだけどね」
「あの30年戦争のヴァレンシュタイン?」
「そうだよ」
「あなたにしては、勇ましいテーマですね」
「あなたにしては、ね」リシャールが笑った。「で、ピッコリーノ、きみは何を提出するの?」
「ヴァイオリンソナタとオルガンソナタを一曲ずつ書いています」
「なぜ? きみたちは、一曲でいいんだよね?」
「ぼくは移り気なんです。ぼくには二人の娘がいて、二人ともかわいいんですよ」ヴィルフレードが言った。その調子から、彼が冗談を言っているのがわかった。
「なるほど、お気に入りの娘を出すわけだね」
「本当は、取っておきたいところなんですがね」
 そして、二人は笑った。
「・・・ところで、シャルロット=チャルトルィスカが病気だって噂を知っていますか?」ヴィルフレードは、急に真面目な顔で訊ねた。
 リシャールの顔もくもった。「ミューに聞いた。重いんだってね」
「ひどい熱なんだそうですよ」ヴィルフレードは暗い表情になった。
 リシャールは立ち上がり、オルガンの近くに置いたボックスを開けた。そこには、手書きの楽譜がいくつか入っていた。リシャールは、お目当ての楽譜を取りだした。ひどく几帳面な字で<聖母マリアへ捧げる祈り>と書いてあった。
「・・・シャルの字ですね?」
「だけど、ミューの曲だ」リシャールはコンソールに戻り、ストップを動かし始めた。そして、動かしながら言った。「シャルロットにも、同じタイトルの曲があるんだ。二人は、同じタイトルの曲を3つ交換したんだそうだ。その6曲のうち、一番優れているのがこれだ」
 リシャールは、それを弾き始めた。
 ペール=ボニファースは、オルガン席の二人の様子を下から見ていた。そして、彼は、下で熱心に祈っている何人かの少女たちに視線を移した。かの女たちは、まだ4~5年生くらいに見えた。かの女たちが去っていくと、今度は、別の女の子たちがやってきた。彼は、ここ2~3日、普段人気のないこの小聖堂に、どうしてこんなに女の子が集まるのだろう、と不思議がっていた。リシャールとヴィルフレードが上にいる間にここを訪れた女の子は、15人を超えた。ペール=ボニファースは、不思議がりながら小聖堂を出た。
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