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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第4章

第68回

 一緒に座っていた女性を見て、クラリスは驚いた。
「・・・まあ、ナターシャじゃないの!」
 女性は、ナターリア=スクロヴァチェフスカであった。
「なかなか、お似合いの二人だろう?」別のチェリストが言った。彼の名前はトマシ=ステファンスキーといった。「本当は、同じポーランド人同士、ぼくが口説いてみたかったんだけどね・・・」
 クラリスは、心配そうにステファンスキーに訊ねた。「本当に、お似合いだと思う?」
「ウワデクの人間性は保証するよ。彼は真面目な人間だ」彼はそう答えた。「真面目すぎるくらいだよ。さっきの話を聞いたろう?」
 クラリスも真面目に答えた。「ナターシャは、わたしの大切な友人よ。かの女には、幸せになってもらいたいのよ」
 その場の全員がうなずいた。
 そこへ、ロベール=フランショームがやってきた。彼は、黙ったままクラリスに折りたたんだ一枚の紙を手渡し、その場を後にしたのであった。
「・・・何かあったの?」フランク氏が訊ねた。「開いてごらん」
 クラリスは、ちょっとためらった後、紙を開いた。そして、全員の前で読んだ。
「・・・<愛はつねに忍耐強い、慈悲に富む、ねたまない。愛はほこらず、たかぶらない。愛は非礼をせず、自分の利を求めない。愛はいきどおらず、うらみをいだかない。愛は他人の罪を喜ばず、真理を喜ぶ。愛は何がこようとすべてをゆるし、すべてを信頼し、すべてを希望し、すべてを耐え忍ぶ。>・・・」
「・・・聖パウロのコリントの教会への手紙?」フランク氏が言った。
 クラリスはうなずき、手紙を一同の前に置いた。
「どういうことかしら?」クラリスは首をかしげた。
 一同も首をひねった。
 クラリスは、突然立ちあがった。
「・・・どうしたの?」フランク氏が訊ねた。
「交響曲よ。このメロディーに作曲しろ、ってロビーが言っているんだわ」クラリスが答えた。かの女は、切羽詰まったような表情になり、紙切れを握りしめながらその場を去った。
 一同は、あぜんとしてかの女を見送った。
「・・・作曲家も大変だね・・・」ヴェルネが言った。「インスピレーション、って、ああいうものなのかな? 作曲の才能がないからわからないけど」
「また、作品が大きくなりそうだね」別の誰かが言った。
「<交響曲”愛”(サンフォニィ=ダムール)>ってところかな?」フランク氏が言った。
 一同は笑った。クラリスが現在作っている交響曲の正式なタイトルがこれになると思ったものは、この時点では誰もいなかったからである。
 それから5日間、オーケストラのメンバーは、指揮者も作曲者もなしで練習しなければならなかった。
 クラリスは、一通の電報を受け取ると、後先かまわずに飛び出していったからである。
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