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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第4章

第69回

 ルイ=フィリップ=ド=ルージュヴィルは、クラリスを突然パリに呼び出した。
 クラリスは、彼からの電報に記されていた住所を訪ねて歩きながら、奇妙な感覚を味わっていた。
 着いた先は、鉄条網で囲まれた空き地であった。かの女は、その荒れ果てた土地に立っていた一本の木を見つめた。その木には、不思議に見覚えがあった。
 気がついてみると、かの女はその木の下に立っていた。
「・・・何か、思い出したんでしょう?」ルイ=フィリップ=ド=ルージュヴィルが後ろから声をかけた。
 クラリスは黙っていた。
「その木に、見覚えがあるでしょう?」
 クラリスは黙ってうなずいた。
「あなたは、ここに住んでいたんじゃないんですか?」彼が訪ねた。
「・・・わかりません」クラリスが答えた。
「あなたは、あのメダイのことを、何も覚えていないんですか?」
「知らないわ、そんなこと」クラリスが答えた。
 彼は、ブルーの目でクラリスをじっと見つめた。かの女は、思わず目をそらした。
「・・・あなたって、嘘がつけないひとなんですね」彼は、優しい口調で言った。「メダイはどこですか? あなたは、たぶん、思い出したはずです。言って下さい」
「・・・わかりません」クラリスも繰り返した。
 彼は、黙ったままクラリスを見つめていた。
 クラリスは、ふっとためいきをついた。
「わたしは、嘘はついていない。メダイを見たことは一度もないわ。ただ、養父がこう言ったのを思いだしたの。『メダイは、庭の大きな木の下に埋めた』---それしか知らないのよ」
 彼は、にぎっていた右手を開いた。そこには、ちいさなメダイがあった。
「これが、そのメダイです。あなたは、これの正当な持ち主です。これは、ここにあったのです、この木の下に・・・」彼は静かな口調で言った。「あなたは、行方不明だったぼくの姉です。あなたの名前は、マリー=クリスティアーヌ=ド=ルージュヴィルです」
「どうしてわかるの? わたしのものだ、と証明されたわけじゃないでしょう?」
 彼は答えた。「詳しいことは、後で話します。でも、間違いなく、あなたはぼくの姉なのです」
 クラリスは、言い返そうとした。
「あの日---あなたがフォンテーヌブローから落馬した日---ぼくは、あなたが姉だと確信しました。家族の誰もが、あの火事の時に亡くなったと思っていた姉が生きているなんて考えたこともなかったのですが、ぼくにはわかったんです。姉は生きていたんだ、って」彼の口調が変わってきた。「もし、姉が生きているのなら、当然自分の家族に会いたがるだろう、と思っていたのですが、あなたは、ちっともそうは見えませんでした。いいえ、それどころか、それを認めたがらないようにさえ見えました。だから、ぼくは、あなたに証拠を突きつけなければならないと思いました」
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