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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第4章

第70回

 そこまで話すと、ルイ=フィリップは、目に涙をためてクラリスを見つめた。
「・・・ぼくは、知りたかったのです。あなたは、どうして自分の過去を知りたがらないのだろうか。どうして、ぼくたちを家族だと認めたくないのだろうか? もしかして、ロベール=フランショームのことが気がかりなのだろうか?・・・って」
 クラリスの目にも涙がたまってきた。「違うわ。わたしは、恐かっただけ。思い出すことが・・・そして・・・そして・・・すべてを知ることが・・・。だから、思い出すまいとしていたのよ・・・」
 ルイ=フィリップは、メダイをかの女の手ににぎらせ、その上からその手をしっかりと握った。その手の甲に涙が落ちた。クラリスは、彼を自分の方に引き寄せて抱きしめた。二人は、しばらくそうやって泣いていた。
「そう、思い出したわ。ここに住んでいたんだわ。そして・・・火事で・・・」クラリスは、声を詰まらせた。「そうよ、ここだったのよ。でも、わたしは、忘れようとしていた・・・そして、忘れていたのよ、すべてを・・・」
 クラリスは、弟から離れ、木の方へ歩き出した。
「間違いない、この木だった・・・あの日、ここで、家が焼けるのを見ていたんだわ」クラリスがつぶやいた。「あのとき、すべてが終わったと思った・・・でも、あれがすべての始まりだったんだわ」
「すべての、始まり?」ルイ=フィリップが訊ねた。
「そう、そんな気がするの。あのままここにいたら、わたしは、ザレスキー一族だとは思わないまま一生を終えたかもしれない。音楽に出会わなかったら、フランショーム一族の人間とは会わずにすんだかもしれない・・・」クラリスが言った。「こんな仮定は無意味かもしれない。でも、わたしは、すべてを知ってしまった・・・もう、後戻りはできないんだわ」
 ルイ=フィリップは、涙を拭いてほほえんだ。「後戻りする必要はありませんよ、クラリス」
「・・・どういうこと?」
「あなたは、もう、ロベール=フランショームに出会ってしまったのです。これは、もう、どうしようもない事実です。あなたは、スタートラインに立ってしまったんです。もう、走るしかありません」
「どっちに?」
「わかりません。いいえ、あなたなら、きっと前に進むでしょう。あなたは、そういうひとに見えます。ただ、フランショーム一族は、ぼくたちが考えている以上に、ザレスキー一族の人間を憎んでいます」ルイ=フィリップが言った。「でも、あなたになら、ロビーの心を動かすことができるんじゃないか・・・そんな気がします。ぼくは、あなたの味方です、クラリス」
 彼は、かの女の手を取って歩き出し、停めていた馬車にかの女を案内した。
 彼らが向かった先は、大きな屋敷であった。クラリスが驚いたのは、門から見て左側の部分の一部が壊れたままの状態になっていたからである。
「・・・ここが、その火事の現場です」ルイ=フィリップが言った。「おかえりなさい、姉上」
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