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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第4章

第72回

「知り合いかね?」シャロンが訊ねた。
 クラリスは、うなずいた。「この女性は、エリザベート・・・エリザベート=リルというお名前です」
 女性とシャロンが同時にうなずいた。
「わたしは、昔、このひとをリリ=リルと呼んでいました」クラリスが続けた。
「・・・クラリスお嬢さま、生きていらっしゃったんですね!」女性は思わず涙ぐんだ。そして、シャロンの方を向いた。「わたしをリリ=リルと呼んだのは、昔お世話したクラリス=フレデリック=ド=ヴェルモンさまだけです。あの火事でお亡くなりになった、ちいさなお嬢さまだけです・・・」
「『あの火事』・・・?」クラリスはつぶやいた。
「・・・あの火事で、みんな焼け死んだとばかり思っていました・・・一人残らず、みんな・・・」女性は泣きながら語った。「誰一人助かったものはいなかったんです・・・あの日、あそこにいた人は・・・」
 クラリスは、女性に向かって優しく訊ねた。「あなたは、なぜ助かったの?」
「5月14日は、わたしの誕生日でした」女性が答えた。
 クラリスはうなずいた。「・・・ド=ヴェルモン家で働いている人たちは、誕生日に休暇を取る習慣がありましたね」
 女性がうなずいた。
「・・・そして、5月14日は、アントワーヌの誕生日でもあった・・・」クラリスが小さい声で言った。
 それを聞くと、女性はわっと泣き出し、部屋から飛び出していってしまった。
 フィルは、ティーセットをテーブルに並べ、皆に座るよう促した。
 シャロンは、クラリスに言った。
「わたしも、あなたを試してしまった。許して欲しい」
 クラリスは首をかしげた。
「あなたが、わたしの娘だと、自分の目でも確かめたかったんだ。あなたは、間違いなくクラリス=ド=ヴェルモン本人ですね」
「もちろんです・・・」クラリスはまだ腑に落ちない表情をしていた。
「リル夫人が言ったとおりだ。『誰一人助かったものはいなかった、あの日、あそこにいた人は』・・・。だとすれば、あなたが本物のクラリスかどうか、証明しなければならなかった」シャロンが言った。「あの廃墟をごらんになりましたね? あれほどの火事で、生き残りがいたなんて、誰も信じていなかったんですよ。当時の新聞にも、全員亡くなったとありました」
「『あなたは、火事で、家族を全員失ったのね。じゃ、わたしたちが、あなたの家族になりましょう』・・・わたしを育ててくれた女性は、こう言ってくれました。そして、わたしは、過去を忘れようとしてきました」クラリスが言った。「・・・当時、わたしは4歳でした。ちいさな子どもだったことも、わたしにとっては幸いだったんです。そして、わたしは、いつの間にか過去のことは忘れてしまっていたのです」
 フィルは、気の毒そうにクラリスを見つめた。
「ですが、ときどき思い出しそうになる瞬間がありました。わたしの養父母は赤毛だったとか・・・夫人が飼っていたちいさな茶色の犬とか・・・。庭があって、ちいさなブランコと大きな木がありました。わたしは、その木が大好きでした・・・。どうしてでしょう、木のことだけはよく覚えていたのです」クラリスが言った。「シャロン・・・さん、わたしの養父母は、フランショーム一族だったのですか?」
 シャロンは、クラリスを見つめ、ゆっくりとうなずいた。
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