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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第4章

第73回

 フィルは、びっくりして父親を見つめた。
「・・・やはり、そうだったんですね・・・」クラリスがつぶやくように言った。
「やはり、って?」フィルが訊ねた。
「初めてロベール=フランショームを見たとき、養父のポール=ド=ヴェルモンを思い出したの」クラリスが言った。「だから、もしかすると・・・と思ったの」
 シャロンはうなずいた。
「でも、どうして、そんなことに?」クラリスが訊ねた。
「・・・詳しいことは、よくわからないのだが・・・」シャロンは言葉を濁した。「娘が亡くなったと思われたあの火事の時、フランショーム一族の男性が一人犠牲になっている。その男性の名前は、フレデリック=ダルベールだった。そして、彼には、妹がいて・・・」
「・・・かの女の名前は、ソランジュ=ド=ヴェルモンと言った・・・?」クラリスが言った。
 シャロンはうなずいた。
「・・・もしかすると、放火犯は、ソランジュ夫人だったかも知れないね。かの女は、あなたがフレデリックの娘だと思いこんで、屋敷に火をつけ、あなたを連れ出そうとしたんだろう・・・」シャロンが言った。「リル夫人は、あなたの名前がクラリス=フレデリックだと言った。フレデリックは、かの女の兄の名前だ」
「わたしは、生まれて4年の間に、2度も火災を経験したんですね・・・」クラリスが考え込みながら言った。「もちろん、最初の火事のことは全然覚えていませんけど・・・」
「あの男性は、火事のさなか、ステラを助け出してくれた。そのとき、妻は『中にまだ赤ん坊が!』と泣き叫んでいた。彼は、もう一度炎の中に飛び込んでいったんだ・・・」シャロンが言った。「・・・そのとき、急に炎の勢いが増して、爆発音がして・・・子どもの声が聞こえなくなった・・・そして・・・彼も二度と帰ってこなかった・・・」
 シャロンは涙ぐんだ。「娘の遺体はとうとう出てこなかった。あまりにも小さな赤ん坊だったので、骨も残らなかったのだと思っていた。だから、あの現場は、ずっとあのままにしていたんだ。あそこは、わたしにとって、娘の墓場だったのだ・・・」
 クラリスも思わず涙ぐんだ。
 フィルも涙を流していた。「ママンは、ときどきあそこに行って泣いていました。『ごめんなさい、わたしが悪かったのよ・・・あのとき、ちょっとでもあなたのそばを離れなかったら・・・ごめんなさい・・・』かの女は、いつもそう言って涙を流していたものです。かの女は、あなたが助かったとは知らなかったんです、クラリス。もっとはやくあなたに出会っていればよかったのに!」
 シャロンは息子の方を見た。「ステラが、そんなふうに・・・?」
 フィルはうなずいた。
「・・・子どものことを、後悔して泣いていた、って言うの・・・?」
 フィルはもう一度うなずいた。
 シャロンは天を仰いだ。
「パパは、一度だって、あそこで泣いているママンを見たことはなかったでしょう?」フィルが言った。
 シャロンは下を向いた。「見たくなかったんでね・・・あそこには、嫌な思い出しかないから・・・」
 もしかして、この夫婦は仲が悪かったのだろうか?とクラリスは思った。ケンカの原因は、この自分だったのだろうか?
 しかし、父子は、それ以上この話題にふれようとはしなかったのであった。
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