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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第43章

第773回

 シャルロットは下を向いた。「少なくても、今のあなたなら、わたしに1サンティームを渡さなかったんじゃないかしら」
「どうしてそう思うの?」
「今のあなたは、あの頃のあなたじゃないから」シャルロットが答えた。「今のあなただったら、わたしの演奏を聴いて、あのときのように感じたかしら?」
「・・・わからない」彼は、かの女の言い分が正しいのを認めた。
「そして、今のあなたになら、わたしは、そのスカーフを渡さなかった」シャルロットは断言した。「そのスカーフは、わたしの宝物だったの・・・お話ししたはずですよね?」
「これは、わたしにとって、幸運の鍵だった」ド=グーロワールが言った。「これを手にしてから、わたしには次々と幸運が舞い込んだ。でも、きみは、これを手放してから・・・本当にいろいろあったね・・・」
 シャルロットはまた下を向いた。
 二人は、ちょっとの間何も言わなかった。
「・・・ぼくの話は二つある。一つは、きみに対する謝罪だ」やがて、ド=グーロワールが口を開いた。
「謝罪?」シャルロットは首をかしげた。「<全フランス>のことですか?」
 ド=グーロワールの表情が暗くなった。「・・・ああ、そうだったね。それもあったね」
 シャルロットはびっくりした。しかし、かの女は冗談めかして言った。「あなたには、ずいぶん秘密があるんですね、モマン=ミュジコー」
 しかし、彼は笑わなかった。彼は何か考え込むような表情を見せた。「・・・そうかもね。大人になるって、人には言えないようなことをどんどん抱え込んでいくことなのかも知れないね」
 シャルロットの顔からほほえみが消えた。「わたしは、司祭じゃないわ。罪の告白をされても困るわ」
「ぼくがしようとしているのは、告解じゃない。謝罪だ」彼はさらに真剣な表情になった。
 シャルロットも真面目な顔で言った。「何も聞かなくてもいいわ。あなたを許しています」
「いや、話したい。そうでなければ、ぼくの気が済まないんだ」彼が言った。
 シャルロットは、彼の真剣な様子を見て、黙ってうなずいた。
「・・・きみは、去年、右手を痛めたよね」彼は話し出した。
「でも、あれは、あなたのせいじゃないわ、モマン=ミュジコー」シャルロットは思わず遮った。
「手を痛めたこと、それ自体はね。でも、ぼくは、それを利用してしまった、ぼく自身の復讐に」
「あなたの、復讐?」シャルロットは驚いた。
「ぼくは、マルフェがきみに負けるのを見たかったんだよ」
 シャルロットはあぜんとした。かの女は、彼が何を言っているのか即座に理解した。学年末テストのピアノ部門の課題曲を<ヴァルトシュタイン>にしようと言い出したのは彼だ、という噂は正しかったのか?
「・・・そのために、テストで<ヴァルトシュタイン>を選んだのですか?」
「そうだ。あれは、マルフェが一番得意な曲だったはずだ。でも、さすがの彼も、両手とも異常のないシャルロット=チャルトルィスカには、きっと負けるに違いない、そう確信していた」
「でも、どうして・・・?」シャルロットは当惑した。
「彼個人には、何の恨みもない。いや、彼には好意を持っていた、と言ってもいい」ド=グーロワールは断言した。「ただ、運が悪いことに、彼はフランショーム一族だ」
「まさか、あなたもザレスキー一族なんですか?」シャルロットは驚いて訊ねた。
 ド=グーロワールはふきだした。「まさか。ザレスキー一族は、全員ブルーの目をしているはずだ。例の<ザレスキー家のブルーの瞳>をね。ぼくは、きみや、ヴィトールドの目のような美しい目をしているか?」
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