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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第43章

第775回

「あいつは、ブタじゃない。赤毛の悪魔だ」ド=グーロワールが言った。
 シャルロットは、フランショーム一族で、そのあだ名の持ち主のことを聞いたことがある。ロベール=フランショームのいとこで、同じアレクサンドル=クールゾン門下のピアニスト、ジャン=セバスティアン=フランショームだ。現在は、イギリスを中心に活躍しているピアニストである。
「赤毛の悪魔?・・・コルネリウスの<バッハおじさま>のことね?」シャルロットが言った。
「おじさま?」
「彼は、コルネリウスのお父さまのいとこなの。だから、正確に言えば<叔父>ではないんだけど」シャルロットが説明した。「でも、彼は<バッハおじさま>と呼んでいるわ。洗礼名が、あの大バッハと同じだから」
 ド=グーロワールは、シャルロットに聞こえないくらい小さな声で悪態をついた。
 それを聞いたシャルロットがほほえんだので、ド=グーロワールは少しだけ晴れ晴れしたような表情になった。
「手を痛めたあとで、きみは、マルフェに仕返しができたといったよね。そのとき、ぼくは、自分の敵討ちのシナリオを作ったんだ」
「気分は、晴れた?」
「ああ。ぼくのほうはね」
「じゃ、もう、マルフェを憎んでいない?」
「だから、憎いのは彼じゃないと言っただろう?」
「本当ね?」
 彼はうなずいた。
「これからは、彼を見ても、あの<悪魔>と一緒にしないって約束して下さるわね?」
「約束するよ」
「じゃ、わたしは、あなたを許します」シャルロットはほほえんだ。
「これで、ぼくたちは、二人とも敵討ちができたわけだが」彼が首をかしげた。「少し深い溝を作ってしまったが、乗り越えられるかい?」
「大丈夫です、モマン=ミュジコー」シャルロットが答えた。
 その表情を見て、彼はほほえんだ。「・・・なるほど、アグレスールは正しかったようだ」
 シャルロットは怪訝そうに彼を見た。
「彼はね、きみがマルフェを愛している、と言ったんだ」
 シャルロットは真っ赤になった。
「・・・さて、フランショーム一族の話のあとは、ザレスキー一族の話だ」ド=グーロワールは、シャルロットの表情にはお構いなく言った。「ヴィトールド=ザレスキーからこれを預かった」
 彼は、ポケットから手紙を取りだした。「お昼の汽車でパリに行くそうだ。見送りに行かない?」
「行きません。彼は、きっと、わたしにはきて欲しくないのよ。だから、手紙なんか書いたんだわ」
「でも、本当に行かなくていいの?」彼は念を押すように訊ねた。
 シャルロットは首を横に振った。
 そのとき、車が研究所に着いた。そして、研究員がドアを開けた。
「スカーフは、返さないよ。ぼくの宝物だからね」彼は、胸元のスカーフをなおしながら言った。
「それは、あなたのものよ。本物の<勇者の勲章>ですもの」シャルロットが言った。
「勇者?」彼は訊ねかえした。
 シャルロットはほほえんだ。「そう、本物の苦難を乗り越えた証です」
「認めていただいて光栄です」彼はそう言い、シャルロットが車から降りるのを手伝った。
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