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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第8回

 翌1880年初頭、セザール=メランベルジェは、「ピアノ三重奏曲ト短調」を作曲した。
 一般受けするような音楽ではなかったが、彼の弟子たちにはかなり衝撃的な音楽であった。
 フランソワーズも、その初演を聞いた。
 演奏終了後、かの女は楽屋に向かった。師のメランベルジェに挨拶するのも目的の一つだったが、初演メンバーのひとり、ピアニストのソフィー=マリアンヌ=ティボーは、かの女の音楽院以来の友人であった。(つまり、マリアンヌもメランベルジェ夫人の弟子であった。)
「フラニー、今度は、あなたの曲を初演させてね・・・」このマリアンヌの言葉が、フランソワーズの心に火をつけた。
 その夜から、フランソワーズは五線紙に向かった。
 クラリスにとっては、誰かが作曲している現場を見るのは初めてであった。
 まだほんの子どもであるクラリスは、作曲すると言っても、ピアノの前に向かって何かを演奏するだけである。が、フランソワーズの場合、ほとんどピアノの前にいないのだった。かの女は、ペンを持ったままなにかぶつぶつと独り言を言ったり、変わったステップを踏んだりしていたかと思うと、さっと机に向かって何かを書き始める・・・というスタイルを取った。
 料理をしながら、何かを口ずさんだり、心ここにあらず・・・といった様子で食事を済ませると、何とおりかのメロディーを口ずさみながら食器を洗ったりしていた。
 クラリスが同じメロディーを口ずさんでいると、「あ、こっちのほうがいいかも」と訂正したり・・・という調子である。
 アレクサンドルは「また始まったか」くらいの表情で見つめていた。彼は、母親のそんな「奇行」には、すっかり慣れきっていた。
 こうして約2ヶ月後、「ヴァイオリンソナタニ短調」が完成した。
 ピアニストは、もちろん親友のマリアンヌしかいなかった。
 問題は、ヴァイオリニストである。
 エドゥワール=ロジェの友人の友人・・・というベルギー出身のヴァイオリニストを紹介されたとき、フランソワーズは、ある直感が働いた。
 彼の名は、テオドール=フランクと言った。当時31歳で、ベルギーではかなりの評価を受けているベテランの域に達しつつあるヴァイオリニストであった。ロジェの話だと、帰国した後彼は、演奏活動から身を引き、後輩指導に専念するつもりだという。まだまだ引退する年ではないのであるが、本人は演奏活動が性に合わないらしい。今回フランスにやってきたのも、ベルギー時代に、留学していたフランス人の後輩たちの後押しだったという。ロジェの友人のヴァイオリニストも、「あのときの恩返しがしたい」と言っていたという。
 実際に会話をし、フランソワーズは、この人をずっと知っていた・・・ような錯覚に陥った。
 こうして、二人の友情はスタートしたのである。
 テオドール=フランクという人は、実年齢よりずっと落ち着いた感じの男だった。ほとんど同じくらいの青年たちからすでに父親のように見られていた、というのもうなずけるように見えた。共演者のマリアンヌも、「大人びた、というよりは、老け込んだ人ね」とフランソワーズに告白したくらいである。
 ところで、テオドール=フランクのマリアンヌに対する第一印象は、「白い菊の花のようなひと・・・」だったという。
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