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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第44章

第781回

 フランソワは、友人を枕元の椅子に座らせた。そして、彼に奇妙とも言える依頼をした。
「何だか、きみのことがもっと聞きたくなったんだ」フランソワが言った。「もしよかったら、子どもの頃の話をしてもらえないかな?」
 ウラジーミル=ミチューリンは、顔をちょっとだけしかめた。「前に話したと思うけど?」
「全部は聞いていないと思うよ」フランソワが言った。「きみは、あまり自分のことを話したがらないじゃないか」
「犯罪者が家族にいるなんて話、自慢にはならないからね」ウラジーミルは冗談めかしてそう言った。「でも、退屈しのぎになるのなら、話してもいいよ」
 そして、彼はペテルブルクで過ごした幼い頃の思い出を語り始めた。そして、父親の仕事の都合でその土地を離れ、ワルシャワに移ることになったことを知ったときの寂しさ、ペテルブルクで勉強を続けるためにその地に残ることになった兄やちいさいときからの友人たちと別れたときの悲しみを語った。
「・・・そして、ぼくたちは、1907年の8月にワルシャワに着いた。ぼくは、学校には行かず、ロシア人の家庭教師と勉強することになった。ぼくには、別れてきた兄のほかには兄弟がいなかったから、ワルシャワでの生活はとても寂しいものだった。友達もできなかったし、話し相手と言えば、家族と家庭教師くらいのものだった。それで、ぼくは、母にピアノを習わせて欲しいって頼んだんだ。ぼくの先生は、アンナ=ヴィエジェイスカという名前のドイツ人だった。かの女は、決して出張レッスンをしない主義だったので、ぼくには、ピアノのレッスンの時に外出するという楽しみができた」ウラジーミルが言った。「・・・ところで、ちょうどそのころ、ポーランド人の子どもたちのピアノトリオができた。名前は<クラコヴィアク>。ヴィエジェイスカ夫人の婿にあたるヴァレリアン=ブルマイスター=ヴィエジェイスキー氏がそのトリオの関係者だったんで、ぼくは、そのトリオに興味を持っていた。ぼくは、母に頼んで、彼らのリサイタルに連れて行ってもらった。彼らは、小さな愛国者だった。男の子たちは真っ白な舞台衣装、小さなブローニャが真っ赤なドレスを着ていた。それは、ポーランドの国旗の色を暗示していた。しかし、それだけでは処罰の対象にはならない。彼らは、かなり危険な綱渡りをしていたとも言える」
 フランソワは目を丸くした。「プティタンジュが、赤いドレスを着ていた?」
 ウラジーミルがうなずいた。「意外かもしれないね。ここでは、かの女は決して赤を身につけなかったからね。どうしてかわからないけどね」
「うん、どうしてだろうね?」フランソワも首をかしげた。「似合わないと思ったのかな?」
「いや、とってもよく似合っていたよ・・・」ウラジーミルはちょっとの間、夢見るような視線になった。「彼らは、才能ある子どもたちだった。ただ、ぼくは、ブローニャのヴァイオリンが一番好きだった。まるで天使の歌声のようなあの音色・・・あれは、一度聞いたら、決して忘れない音色だよね。・・・あ、そうそう、ヴィエジェイスキー氏というのは、ブローニャのヴァイオリンの先生だったんだ。だから、ヴィエジェイスカ夫人は、ぼくが<クラコヴィアク>に夢中になっているのを知ると、喜んでおられた」
 フランソワはうなずいた。
「ぼくとブローニャの間には、それ以上の縁はないはずだった。共通の先生がいたわけでもなかったし、なによりも、ぼくはロシア人だった。ポーランド人たちは、あまり、ロシア人が好きではなかったようだし、ぼくたちも、ポーランド人と交流はなかったんでね」
「ちょっと待って」フランソワが言った。「ヴィエジェイスカ夫人はドイツ人だと言ったよね? どうして、ドイツ人の教師がロシア人の生徒を持ったの?」
「ヴィエジェイスカ夫人の亡くなったご主人がロシア人だったんだ。アドリアン=ヴィエジェイスキーという名前の作曲家だったそうだ。亡くなったヴィエジェイスキー氏は、母の昔の知り合いだったそうだ。より正確に言えば、母の兄の知り合いだったと言うことだった。ヴィエジェイスカ夫人も、伯父のことは覚えていて、ぼくは、かの女の弟子にしてもらえたんだ」
「なるほど」フランソワはうなずいた。「でも、きみとプティタンジュは、ワルシャワで知り合ったんだよね。かの女は、きみの父上のことも覚えていた。いったい何があったんだ?」
 ウラジーミルは、深く息を吸った。そして、ゆっくりと話し始めた。
「あれは、1908年のことだと記憶している・・・」
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