FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第44章

第789回

 フロランスは、噴水の前にさしかかったとき、向こう側からシャルロットが歩いてくるのに気がついた。
「・・・シュリー!」フロランスは手を振りながら叫んだ。
 シャルロットの足が一瞬止まった。かの女は、フロランスの姿を認めると、再び歩き出した。そして、フロランスの前にやってきて、うれしそうに声をかけた。
「・・・ありがとう、シュリーと呼んでくれたのね、ドリー?」シャルロットが言った。
 フロランスは、シャルロットの涙に気がついた。「・・・泣いていたの?」
 シャルロットは涙を拭いた。「・・・何でもないわ」
「何でもないのなら、泣かないはずよ。何があったの?」フロランスが優しく訊ね、噴水の前のベンチにかの女を座らせた。そして、自分も隣に座った。フロランスは、ちょっとの間返事を待ったが、どうやらシャルロットが返事をしない様子だったので、断定的な口調で続けた。「マルフェのこと、考えていたんじゃない?」
 シャルロットは顔を上げたが、肯定も否定もしなかった。
「あなたらしくもない。希望を持ちなさい。人間には、どうしようもないことがいっぱいあるけど、希望があれば何とかなるものよ」
 シャルロットはフロランスを見つめた。「あなたって、強いのね、ドリー」
「わたし、あなたより6年も長く生きているのよ」フロランスがほほえんだ。「あなたは、わたしが初めて会ったときのわたしの年齢なのよ、信じられる?」
 そう言うと、フロランスは、シャルロットの手を取った。
「ねえ、シュリー」フロランスが言った。「あなたは、もっと自分に素直に生きていいのよ。あなたには、バベットに気兼ねする必要なんてないのよ」
「気兼ねだなんて・・・」
 フロランスは首を振った。「いい、よく聞いて。あなたは、コルネリウス=ド=ヴェルクルーズを愛している。間違いないわね?」
 シャルロットは黙っていた。その沈黙を肯定と取ってフロランスが続けた。
「そして、彼もあなたを愛しているわ。それも間違いないわ。つまり、あなたたちは、お互いに相手が好きだということよ。それなら、あなたたちは、誰にも遠慮する必要なんかないんじゃないの?」
 シャルロットは何か言おうとした。
「いい、わたしの話をよく聞いて、シュリー。真実は、一つしかないものなのよ。あなたたちが本当に愛し合っているのなら、あなたがしようとしていること---マルフェをバベットに譲ろうとすることは、間違っていると言うことになるわ。それは、本当の愛じゃない。マルフェに対しても、バベットに対しても、裏切りになるのよ。そう、3人とも苦しむような結末になるのなら、それは、本物の愛じゃないわ」
 シャルロットは口を開いた。「わたしたちは---わたしとマルフェは、愛し合っているわけじゃないわ。ショップは、彼を愛している。もしかすると、わたしよりも、ずっと・・・。わたしには、それがわかるの。わたしは、マルフェがかの女を選ぶのなら、それでいいと思うし、かの女は彼にふさわしいわ」
 フロランスは肩をすくめた。「あなた、小説の読み過ぎよ。あなたは、<ムーンライト=ソナタ>の登場人物じゃないのよ。恋人は、譲り合うものじゃない。譲り合っているうちは、本物の愛じゃない。わたしは、フェリシアンに同情なんかしないわ。フェリシアンがしたことって何? 彼は、恋人も自分の弟も不幸にしてしまったじゃないの。何が愛よ! そんなの、ただの感傷にすぎないわ。本当に好きなら、黙って見ていられるはずはないわ。あなたが好きなのは、マルフェなの、ショップなの?」
「わたしには、ショップを裏切ることはできない・・・」そう言うと、シャルロットは顔を覆って泣き出した。
 フロランスは、かの女の肩を抱いた。そして、かの女を立たせて言った。
「バベットとの友情を選ぶのね? わかったわ」フロランスが言った。「それで、彼が幸せになればいいんだけどね」
 そして、フロランスはシャルロットを抱きかかえるようにしてその場を去った。
「・・・聞いたね?」しばらくしてバラの藪の中に隠れていたジュール=ド=メディシスがエリザベート=ド=ノールマンに言った。
 エリザベートは、両手を覆って泣いていた。
「なんて美しい友情物語だ」ジュールは皮肉めいた口調で言った。そして、彼はかの女を抱き寄せた。「しかし、きみには望みはないよ。あの二人は愛し合っている」
 エリザベートは彼が抱きついてきたので、身をふりほどこうとした。
「何があっても、あの二人の邪魔はできない」彼はかの女をさらに抱きしめながら言った。「そして、邪魔をするべきじゃない。ぼくの方を向いてくれ、バベット。愛しているよ。お願いだ、ぼくを愛して欲しい・・・」
 かの女の目から、再び涙がこぼれた。
「お願いだから、ぼくを愛していると言って欲しい・・・」彼はそう言いながら、かの女の唇を奪った。「きみに必要なのは、ぼくだ。ほかの誰でもない」
 そして、彼はかの女を草むらに押し倒した。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ