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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第44章

第794回

 シャルロットは、フランソワの朝食をトレーにのせて運んでいく途中、泣きながら歩いてきたフロランス=クールゾンとすれ違った。
「・・・どうかしたの、ドリー?」シャルロットは驚いて訊ねた。
「バベットが、出て行ってしまったのよ!」フロランスは泣きながら答えた。
 シャルロットは、びっくりして、持っていた食事を落としかけた。かの女は、念のため食器を下に置き、顔を上げた。「・・・出て行ったって、どこに?」
「わからない。置き手紙があったの。《心配しないで》って書いてあるだけ・・・」フロランスが言った。「昨日の夕方、泣きながら帰ってきて、部屋に閉じこもってしまったの。中から鍵をかけて・・・。中で泣いている声が聞こえた。とても悲しそうに泣いていた・・・。わたし、心配で、朝早くかの女の部屋に行ってみたの。そしたら・・・」
 フロランスは両手で顔を覆った。
「何があったか、わからないの?」
「わからないわ。でも、何かがあったのは確かだわ」フロランスはそう言うと、両手を降ろし、ほほえもうとした。「アンシャンは、心配いらないって言ったわ。かの女のことだから、そのうち、《元気でやっています》って連絡してくるはずだ、って。わたしもそう思うわ。かの女は、昨日、こう言っていた。『わたしは、一生、石ころのままで終わるんだわ。でも、それなら、人の役に立つ石ころになりたい』って」
「・・・人の役に立つ・・・?」シャルロットが繰り返した。「そう。わかったわ、ドリー。わたしも心配しないことにするわ」
 フロランスは、急にシャルロットを抱きしめた。「あなたも、行ってしまうんでしょう、シュリー? でも、あなたなら、どこに行っても、きっとうまくやっていけるわ」
「ありがとう」
「さようならは、言わないわ」
「わたしもよ、ドリー」
 シャルロットは、フロランスの後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、トレーを持った。そして、フランソワの部屋をノックした。
「朝食よ、アンシャン」シャルロットは、いつもより元気がない口調で言った。
 フランソワは難しい顔をしていたが、シャルロットを見るとほほえんだ。
「おはよう、プティタンジュ。ドリーに会ったんだね?」フランソワが訊ねた。「それじゃ、ニュースのことは聞いているね?」
「ショップのこと?」
「いや、ディールのことだ」フランソワが続けた。「ジュール=ド=メディシスは、ラザール=ドランドの行方不明の息子だということが判明したそうだ」
 シャルロットは目を丸くした。
「彼の本当の名前は、セザール=フェリシアン=ドランドなんだそうだ」
「セザール?」シャルロットはびっくりした。かの女はウラジーミルが以前言った言葉を思い出した。「・・・ディスポの推理は正しかったようね。ドランドは、メランベルジェが好きなんだ、って言っていたでしょう、あの人? セザールって、メランベルジェの名前よね?」
 フランソワはうなずいた。
「ねえ、アンシャン、本当は何があったの?」シャルロットが訊ねた。
「何って?」フランソワは怪訝そうに訊ねた。
「ショップとディールよ」
 フランソワは真っ赤になった。
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