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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第44章

第795回

「・・・二人は仲直りしたのさ」フランソワが答えた。
「じゃ、どうして、ショップが泣かなくちゃならないの?」
「・・・女の子は、泣き虫だからね」フランソワは即答を避けた。
「かの女が泣いたのは、わたしのせいなの?」
「いいや、違う」フランソワはきっぱりと否定した。
「じゃ、二人は喧嘩したの?」
「仲直りだ、って言っただろう?」フランソワは不機嫌に答えた。「ただ、ちょっと、やり方がまずかったんだと思う。きみには、絶対に、関係ないよ」
 シャルロットは不安そうに彼を見た。「でも、仲直りって言ったら、和解したってことでしょう? だったら、どうしてショップがいなくなったの?」
「心配いらないよ」フランソワが言った。「女の子って、予測がつかない行動に出ることがあるから、まわりが心配しても仕方ないよ」
 シャルロットはちょっとむっとしたようにフランソワを見た。
「ショップのことは、心配いらない。かの女は、自分の道を歩き出しただけだ」
 シャルロットは、朝食をフランソワに手渡した。
「わたしも、近いうちにここを去ることになるわ」シャルロットが言った。
「どこへ行こうというの?」
「もし、サヴェルネ先生が受け入れて下さるのなら、グルノーブルへ」シャルロットが言った。「そうでなければ、どこかの大学で文学を勉強してみたいの」
「文学?」フランソワはびっくりしたように言った。
「ええ。わたしが興味ある本を、次に朗読しましょうか。・・・もし、時間があれば・・・」
「時間?」
「わたしが出発するのと、あなたの足がよくなるのと、どちらが早いかしら?」シャルロットが言った。
 フランソワは、食べ物の方に目を落とした。「・・・どちらにしても、時間は限られているな」
「メートル=シャントゥールは、まだ怒っているのかしら?」
「彼は、頑固だからね。でも、わかるよ、彼の気持ち」フランソワが言った。「だけど、ぼくは、いくら飛行機が好きでも、それに命をかけるつもりはない。ぼくは、彼の望み通り、5代目の<メートル=シャントゥール>になるつもりだ。ぼくの夢は、いつか、自分のオリジナルのケーキを作ることだ。ぼくの名前は<フランソワ=ジュメール>というケーキの名前として、死後も残っていく。ぼくの仕事とは、そういう仕事なんだ」
 シャルロットは、大柄な彼が真っ白のシェフの服を着てケーキを作っているところを想像した。彼は、彼の父親のような立派なケーキ屋になるだろう。そして、彼の作るケーキは、町中の女性たちを魅了する。100年、あるいは200年経ち、彼のことを誰一人覚えていない時代になっても、<フランソワ=ジュメール>という名シェフがミュラーユリュードに存在したことが、彼が作ったケーキの製法を受け継いだ人たちによって伝説として残るのだ。
「いつか、あなたの名前の付いたケーキをごちそうしてね」シャルロットが言った。
 フランソワはうなずいた。「そうだな、1946年の6月までには、そんなケーキを作り出したいね」
「約束よ、アンシャン」シャルロットはほほえんだ。「あなたは、誰よりも幸せな人なのね。一生を捧げるにふさわしい仕事が見つかっているんですもの。約束、忘れないでね」
 フランソワもほほえんだ。「忘れるものか」
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