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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第5章

第78回

 シャンベリーに戻ったクラリスとフィルは、アレクサンドリーヌの家族とオーケストラのメンバーから歓迎を受けた。クラリスの本当の両親がわかったことは祝福されるべき出来事だったのであるが、フランショーム家の男性二人だけは複雑な思いでその報告を聞いたのである。
 到着した晩、クラリスとフィルはフランショーム家の兄弟とテーブルを囲んでいた。
「・・・わたしたちが姉弟だというのもなんか変な感じだけど、あなたたちが兄弟だというのも不思議な感じね」クラリスが言った。
「兄弟といっても、わたしたちの場合、父親が違いますしね」アルトゥール=ド=ヴェルクルーズが答えた。「わたしは、母が再婚した相手の子どもですから、父親が違う兄たちとはあまり一緒にいなかったという事情もあります」
「わたしと兄のエクトールは、小さい頃からイギリスに留学していましたしね」ロベール=フランショームが言った。「亡くなった父の希望でした。彼もイギリスで教育を受けたのです」
「母は、わたしたちが音楽家になることを望んでいました。特に、一番上のエクトールは、次の当主として音楽家以外の道は考えられなかったのです。母は、彼には生まれたときから期待していたようです。エクトールというのは、あのベルリオーズの名前ですからね」アルトゥールが言った。「でも、弟のロビンのほうが天才少年として有名になってしまったので、小さい頃は、彼はずいぶん苦労したと思うな」
「わたしは、ちょっと器用だっただけです」ロベールが控えめに言った。
 クラリスは、不思議そうにその話を聞いていた。
「エクトール=フランショームは、現在売り出し中の指揮者です」フィルが説明した。「天才少年指揮者・・・というのは、あまり聞かない称号ですからね。彼なりにかなり苦労したんじゃないでしょうかね」
 それは、ありそうな話だ、とクラリスは思った。しかし、かの女が考えていたのは、エクトールのことではなく、友人のエマニュエル=サンフルーリィのことであった。
「母も、どうしてもロビンと比較してしまうので、エクトールには失望していたんだと思いますよ」アルトゥールが言った。「彼の才能は指揮者向きだったのですが、なかなかそれに気づかなかったので、むしろ失望していたのかもしれません。いいえ、ロビンが目立ちすぎたんです」
 ロベールは苦笑した。
「そう、わたしたち3人の中では、ロビンだけ目立っていました」アルトゥールが続けた。「わたしは、気楽なものでした。わたしに才能がないということを、はやくから気づいてくれましたしね。かの女がなぜわたしの父と再婚したか、わたしは今でも不思議に思っているんです。シャルル=ド=ヴェルクルーズは、音楽とはなんの関わりもないただの町医者でしたからね」
 クラリスは、アルトゥールが医者を志望しているのは父親の影響なのか、と思った。
「母は、再婚後もジョルジェット=フランショームを名乗っていますが、正式にはジョルジェット=フランショーム=ド=ヴェルクルーズというんです。かの女は、フランショーム家当主なので、フランショームの名を捨てるわけにはいかなかったのです。逆に、わたしは、フランショーム家当主の息子に生まれたけど、フランショームを名乗っていないわけです」
「フランショームという姓でないことは、残念なことかしら・・・?」アレクサンドリーヌが、4人にお茶をだしながら訊ねた。
 アルトゥールはにやりとした。「わたしは、音楽家じゃありませんから、どちらでもいい話です」
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